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第27話 オキロ

「……い」 「…」 「おい」 「……ん」 「おい!中!」 ぺしぺしと頬を叩かれていることに気がつき、まだ眠い瞳を開けると、そこには埜がいつもの仏頂面で俺を見ていた。 「んあ、埜……おはよ…」 「おはよじゃねぇ……もう夜の7時だ。父さんたち夕飯食ってから帰るって連絡知らないだろ」 「はーそうなんだ。今何時……」 「だから7時だって!起きろ馬鹿」 「いてっ」 頭を叩かれてマジで痛いのに我に返る。 家に帰って来てから、2時間ほど寝てしまったようで、外は真っ暗になっていた。 スゲー疲れてたもんなぁ……やたら疲れてまだ寝れる気がした。 「髪……切ったんだな」 「え、あーそう!切った!…伸びっぱなしだったから」 ソファに起き上がり乱れた髪を整えていると、隣に腰かけた埜が俺の髪を指で摘まんで直してくれる…… 「へー……イイ感じにカットされてんじゃん。この服……買ったのか?」 「そう……俺が着てた服だと、この髪型に合わない気がしてさ。なな何か…なんかさ、行ったところが凄いお洒落な美容院でっ!そこでお任せで切ってもらったんだけど、俺なのに俺じゃないみたいな感じの髪型で、俺が着てる服には似合わないんじゃないかっておお思って……」 「うん」 「で、でさ!服装のせいで…このいい感じのヘアースタイルが馬鹿にされたら何か申し訳ないなって思って……」 「……ん」 「服はそこのショップの店員さんにアドバイスもらって、試着もして…選んで…このまま着て行きますって!言ってさ……着て帰って来たんだ!そんなことしてたらちょっと疲れたみたいで、家着いたらそのまま脱力~ここで寝てたわ……ははは」 「ふーん……」 「……あの……へ、変……かな?」 「……まぁ、……セーフだ」 「はは、そか……よかった」 「ん」 「へへ……」 「……中」 「……」 「……こら」 「……」 「泣くなって……」 「……だって……」 「…………今日…中なりに、頑張ったんだろ?」 埜の手が俺の頬に触れ、濡れた目元を指で拭ってくれる。 喋っているうちに泣いていたようで、目から涙が零れてきてしまう。 一度流れ出した涙は、自分にも止めることができない。 「ん、うん……頑張ったかなぁ俺…ぅ……」 顔面酷い有様になってしまったとき、埜にグイっと引き寄せられ抱きしめられた。 埜の体温に包まれると完全に気が緩んでしまい、そうなったらもう止められなくて思い切り泣けてしまう。 今日は朝から無駄に緊張しっぱなしだった。 初めての経験ばかりで、嬉しかったり嫌だったり戸惑ったり……感情の波もあり家に帰るまでずっと気を張りっぱなしだったんだ。 埜のTシャツをハンカチ代わりにして思い切り泣いた。 その間埜は何も言わずに抱きしめていてくれていて、俺が泣き終わるまで背中を擦ってくれていた。

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