27 / 99
第27話 オキロ
「……い」
「…」
「おい」
「……ん」
「おい!中!」
ぺしぺしと頬を叩かれていることに気がつき、まだ眠い瞳を開けると、そこには埜がいつもの仏頂面で俺を見ていた。
「んあ、埜……おはよ…」
「おはよじゃねぇ……もう夜の7時だ。父さんたち夕飯食ってから帰るって連絡知らないだろ」
「はーそうなんだ。今何時……」
「だから7時だって!起きろ馬鹿」
「いてっ」
頭を叩かれてマジで痛いのに我に返る。
家に帰って来てから、2時間ほど寝てしまったようで、外は真っ暗になっていた。
スゲー疲れてたもんなぁ……やたら疲れてまだ寝れる気がした。
「髪……切ったんだな」
「え、あーそう!切った!…伸びっぱなしだったから」
ソファに起き上がり乱れた髪を整えていると、隣に腰かけた埜が俺の髪を指で摘まんで直してくれる……
「へー……イイ感じにカットされてんじゃん。この服……買ったのか?」
「そう……俺が着てた服だと、この髪型に合わない気がしてさ。なな何か…なんかさ、行ったところが凄いお洒落な美容院でっ!そこでお任せで切ってもらったんだけど、俺なのに俺じゃないみたいな感じの髪型で、俺が着てる服には似合わないんじゃないかっておお思って……」
「うん」
「で、でさ!服装のせいで…このいい感じのヘアースタイルが馬鹿にされたら何か申し訳ないなって思って……」
「……ん」
「服はそこのショップの店員さんにアドバイスもらって、試着もして…選んで…このまま着て行きますって!言ってさ……着て帰って来たんだ!そんなことしてたらちょっと疲れたみたいで、家着いたらそのまま脱力~ここで寝てたわ……ははは」
「ふーん……」
「……あの……へ、変……かな?」
「……まぁ、……セーフだ」
「はは、そか……よかった」
「ん」
「へへ……」
「……中」
「……」
「……こら」
「……」
「泣くなって……」
「……だって……」
「…………今日…中なりに、頑張ったんだろ?」
埜の手が俺の頬に触れ、濡れた目元を指で拭ってくれる。
喋っているうちに泣いていたようで、目から涙が零れてきてしまう。
一度流れ出した涙は、自分にも止めることができない。
「ん、うん……頑張ったかなぁ俺…ぅ……」
顔面酷い有様になってしまったとき、埜にグイっと引き寄せられ抱きしめられた。
埜の体温に包まれると完全に気が緩んでしまい、そうなったらもう止められなくて思い切り泣けてしまう。
今日は朝から無駄に緊張しっぱなしだった。
初めての経験ばかりで、嬉しかったり嫌だったり戸惑ったり……感情の波もあり家に帰るまでずっと気を張りっぱなしだったんだ。
埜のTシャツをハンカチ代わりにして思い切り泣いた。
その間埜は何も言わずに抱きしめていてくれていて、俺が泣き終わるまで背中を擦ってくれていた。
ともだちにシェアしよう!