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第28話 チカスギ

「ご、ごめん……埜の服、超濡らした……」 「……しゃーないだろ……ひでー顔……」 「一生分泣いたかもしれない……」 「はは……ん……あれ、つけてるか?この間あげたやつ」 埜は俺の襟足の部分を指で撫でながら、そう呟いた。 この間あげたやつとは、デオドラントウォーターのことだろう。 「うん、つけてる……いい匂いだよあれ」 「ん」 俺がつけているその匂いを確認するように、埜は首元に顔を埋めた。 埜の跳ねた髪が顎に触れて、少しくすぐったい。 それに鎖骨の辺りにかかる埜の吐息のせいで、妙にドキドキしてしまう。 ……あ…… ピクン ……首筋に触れた柔らかい感触……少しの間触れて離れたけれど、あれは埜の唇だったんじゃ…… いや、それは意味はなくただ匂いを嗅いだら、偶然ちょっと触れたってだけだからきっと! 何か何か、考え過ぎだぞ俺! そう思ったら、この俺たちの今の状態が思い切りおかしいんじゃないかと思ってしまい焦ってきてしまう。 二人ソファに座り、埜に抱きしめられているこの状態……近い…近いぞ。 ………嬉しいけど…埜が近すぎて戸惑う。 あ、 でもそれだけ兄弟仲がいいってことなのか? 今までの不仲を思い返してみれば、今の状態はむしろ喜ばしいことなのでは!? 嬉しいと恥ずかしいと思う気持ちに戸惑い、 その気持ちの正体が分からないまま、この雰囲気に耐えられず思い浮かんだことを口にした。 「あーーあのさっ!今日友達の美緒って奴のお兄さんに髪を切ってもらったんだけどさっ!」 「…………は?」 「すげー上手い美容師だったんだけど」 「おい」 「?」 「……美緒って……女?」 「?」 「……」 「ええと男、クラスメイトの篠崎美緒って奴……だけど」 「………し の ざ き……中、お前……今日あいつと…篠崎と一緒だったのか?」 「そうだよ……うぎゃ!!」 むんぎゅと両方の頬っぺたを埜に思い切り摘ままれて、上手く喋ることができない。 今まで穏やかだった埜の顔が、急にいつもの仏頂面へと変わり、機嫌が悪くなったことが見てとれた。 「ってことは……その服……篠崎が選んだのか……」 「……ひゃ、ひゃいそうれす?」 「……」 「……」 「……あ い つ…」 摘ままれていた手がやっと離れて頬が解放された。 「い、いたいぃ……埜……美緒のこと知ってんの?」 「……あいつ、中と同じクラスかよ…………」 「おーい聞いてるかー?」 「ああ?知ってるよ!同じ部活だったから」 「……え、埜って……元バスケ……部?」 そんな俺の質問は聞いてはいないようで、埜はムスっとしながら不機嫌そうに何かを考えているようだった。 埜と美緒は同じバスケ部だったんだぁ……だったってことはやめてしまったってことだよな? やっぱりモデルの仕事を始めたからだろうか……

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