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第41話 エガオ
「あ、そうだ……中……こいつ俺の友達の井ノ上」
「?」
埜から少し離れた廊下の窓側に立っていた男子が近づいてきた。
落ち着いた印象で、メガネをかけていて頭が良さそう……
「あー良かった。俺の事無視して、そのまま帰ろうとしたら殴るところだったよ。こんにちは俺、井ノ上……井ノ上真人って言うんだ。埜と同じクラスなんだけど、お兄さんを紹介して欲しくってさ、埜について来たんだ。よろしくな」
「はい!景森中也って言います。よろしく」
「ははは、ふーん……」
「じゃあな。真人」
「……はや!で、俺は一緒に帰れないのかよ。はいはーい、またなー」
せっかく紹介してくれたのに挨拶早々、埜に引っ張られ井ノ上くんとは別れてしまった。どうせなら一緒に帰れば良いのに……
二人で昇降口へと向かう間、周囲から埜に声がかけられる。
……
意外というか……予想外に埜がそれにきちんと返事をしていて、普段見せない笑顔を見せつつ優しく会話をしている。
その様子を見て、俺は夢でも見ているのかと思ったんだ。
あの埜が笑顔だ……埜ってあんな風に笑えるんだ……ちょっとしたことでも優しいく接している姿に、この人ひょっとして埜のそっくりさんではないかと思うくらい、俺の知っている仏頂面で毒のある埜ではなかった。
「わー!景森先輩のウワサのお兄さんだ!あの握手してくださーい」
「え?」
お、俺?一年生らしい子達が駆け寄ってきて、何故か握手を求められる。
な、ななんで俺?可笑しいでしょ。
「えー何、俺じゃ駄目かなー?」
「え!景森先輩いいんですかー!お願いしますっ!」
埜は笑顔で一年生の子達に握手をしてあげると、その子たちは満足そうにはしゃぎながら立ち去って行った。
あー驚いた。
「………クッソアマが」
「……」
ひぇ……
爽やか笑顔を崩さない埜のその一言は、間違いなく俺の知っている埜で、ちょっと安心しつつも立ち去った子達に申し訳ない気持ちになってしまう。
「俺の知ってる埜が少し見えた……」
「……うるせー黙ってろ」
……
ああそうか、埜の爽やか笑顔はファンサービスでしているということか。
仕事をしている以上、イメージが大事だからあえてそう振る舞っているんだと理解した。
確かに仏頂面で毒舌なことを言っている埜は、怖くてイメージは良くないかもしれない。
……はー……ちゃんと考えてるんだな。
埜って……凄いなぁ……
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