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第49話 ヒロウカン
朝からバッチリ埜とキスをしてしまい、思考が停止。
からかわれたのに、怒ることさえできない不甲斐なさ。
「……な、埜……」
「ボーっとしてたら、またするからな」
頭をぽふぽふと軽く叩き、いつものように俺のズレている寝間着を直して、埜は自分の部屋へと戻って行ってしまった。
……本当に……本当に埜とキス……し……た……
あああああ!!!
「は!わああぁ……っ!」
声にならない叫びを洗面台の鏡の自分に向かって吠えた。
映る自分の顔は赤面し、髪は寝起きでいつにも増してボサボサだ。
これはボーっとしてられない!!
バシャバシャと顔を洗い勢いで髪まで濡らして頭をスッキリさせる。
またするって言ってた……
またって……またって言うことは、3回目があるってことだ……
ひぃ……!!
それを思うだけで心臓がドキドキして来てしまう。
朝からこの半端ない疲労感……どどどうしたらいいんだ?
何はともあれ、この状態を作った張本人のあいつをぶっ飛ばしたい!!
美緒ーーーーー!!
洗面所での一件の他はいつも通りの埜で、家族の前でも登校中も自然体の埜だった。
でも俺の心はいつも通りでも自然体でもなくて、登校中もドキドキソワソワしっぱなしだ。
「あ、悪い。俺今日は急いで帰らないとだから一緒に帰れそうもない」
「え、ああそうなんだ!わかった。じゃぁ、秀多と帰るから」
「……その秀多って……ダチ?」
「え、そうだけど」
「ふーん……」
そんな会話をしつつ二人で登校する。
まずは真っ先に登校してきた秀多を捕まえ、埜と美緒のキス事件を聞いてみた。
「あーそう言えばそんなことあったなぁ。去年だろバスケ部の。知ってる知ってる~。三年が無理やり美緒に部員の目の前で埜にキスしろって命令したんだって?そりゃ逆らえないよなぁ~新入部員はさ」
「そうなんだ」
「……なんかその三年、彼女と別れた原因が埜だったとか言う噂で、どこまでが本当か知らないけど寝取ったとか寝取られたとかー!ってそんな話が飛び交ってたぜ……」
「ね……ね、ねと……」
「まぁ詳しくは本人に聞いたらいいんじゃね?弟さんに中?おーい聞いてるか?」
やっぱり埜と美緒のキスの話は皆が知っているようだった。
その事実確認ができたプラス、埜の寝取られたという新たな噂が衝撃的に俺の胸を突き刺す。
ね、ねと………
……ちょっとダメージ大きすぎじゃね?
とか思いつつ、自分の席に座りそのまま机に突っ伏した。
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