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第51話 ガンバッテ!
それから数日が経つと急に気温が上がって蒸し暑くなり、埜から貰ったパーカーも着ていられなくなってしまった。
世間は夏に向かっている。
実際暑くて着るのはほとんどが半袖だ。
埜はあの洗面所キス事件から、俺に頻繫にキスをするようになった。
3回目のキスはあっさり次の日に更新し、大体一日のうち朝に1回……たまに朝と夜に1回ずつして2回触れるだけのキスをしてくる。
こんなのおかしいと思いつつも、流されてしている俺……
脳内は連日ぐるぐるしているのに、何故か抵抗できない自分がいる。
しかしそのうちに、あぁ……外国だと軽いキスなんて挨拶変わりみたいなものだったりするから、埜はそんな感じで俺にしてくるんだろうと思うようになっていた。
だって埜が俺のことを好きだとか、好きでキスをするとかありえないからだ。
どこにこのダサい俺を好になる奴がいるんだ?サッパリわからない。
それに俺は埜の兄なのだ、アニキは男だ!
ま、まぁそうわかっていても、キスされるとちょっと嬉しいかなぁって思ってたりする。
一向に慣れないから……いつもドキドキしっぱなしだけど。
こんな俺にキスしてくれて有難う埜。
ある日の学校での出来事。
「景森くんのこと……ずっと気になっていて。好きなんです」
「……」
「友達からでもいいから!付き合ってください」
「……へーそうなんだ、んー……そっか……有難う」
「え!じゃぁ……っ!」
これって告白なんだーーと理解。
昼休みに同級生に呼び出されて、女子からそう言われた。
クラスが違うからこの子の事は知らないけど、結構可愛い子だと思う。
俺はその子の両手を手に取り、優しく握りしめた。
「頑張ってね。でも俺……力になってあげられるかわからないけど……」
「え」
「あ、でも本当、本当頑張って!……お、応援してるから!」
「は?えと」
俺は女の子の両手をぶんぶんと力を込めて振り、手を振ってバイバイし一方的に別れた。
彼女は何か言いたそうに佇んでいたけど、ゴメン無視しちゃった。
はぁ~
……やっぱりモテるなぁ。
埜は……
これでいいんだ。
あの子に俺は「頑張って」としか言えなかった。
あの子は埜のことが好きで、兄である俺にキューピット役として協力して欲しくてわざわざ打ち明けにきてくれたんだ。
埜はカッコいいしなぁ。モテて当然だ。
……
でも、何故だろう……俺は協力してあげたいと思えなかった。
酷い兄貴だ……
折角、弟に彼女ができるかもしれないチャンスだったのに……
何故か心の底から応援できない自分がいた。
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