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第52話 ユウガタ
「中ちゃん、この本見てー!」
「ん?」
夕方のリビングで、母さんが抱えて持ってきた一冊の雑誌は、メンズ系のファッション誌だった。
この家にきてから、それ系の雑誌がリビングに置かれていたりするので、全く縁のない俺でもさすがに覚えた雑誌。
埜が載っている雑誌だった。
その雑誌には毎月男子高校生モデルだけのページがあり、何人かのモデルたちが着回しアイテムを教えてくれる有難いコーナーがある。
ちなみに俺が見てもあーなるほどねーと思うのだけど、それが普段の生活に生かされているかは別だ。
母さんが持っているのは、出来立てほやほやの最新号だった。
「今月の埜ちゃんとってもカッコいいのよー!」
「へーそうなんだ」
母さんは嬉しそうに埜が載っているページをめくっている。
今月は女子が選ぶモテコーデとかで、デートにおススメの服や小物をわかりやすく紹介していた。
女子の率直なコメントがあったりと、いくつかのシチュエーションでカップルが仲良さげに掲載されていて、その中に当然埜も載っていた。
いつも通りのカッコいい埜だ。
爽やか笑顔で、たぶんこの中で一番カッコいい。
そんな埜は、可愛らしいモデルの女子と仲良さそうに手を繋いで歩いていたり、頭をポンポンとするシーンがあったりで、とっても絵になっていた。
その子に向かって自然に笑う埜の表情が……とても優しくて……甘い……
……その視線はいつもの埜ではない。
その視線の先には女の子に向けられている。
好意的な視線……
……
……
ギュぅ
無意識に雑誌を持っている手に力が入ってしまう。
「あら~今月はちょっとキュンキュンな感じね。一緒にいる子可愛い子ねー!埜ちゃんとお似合いじゃないの!」
「……そうだね」
「いやーん!中ちゃんもこれ読んで参考にしたらいいわよ!青春よっ!青春Love!」
「……」
「ただいまー」
「あ、埜ちゃん帰ってきた!おかえりなさーい!今ね今、中ちゃんと丁度見てたところなの」
「ん?何を」
「雑誌の最新号ー!今月もカッコ良くてキュンキュンしてたところよ!ねー中ちゃん!ってあら?中ちゃーーん?」
……バタバタ
な、
なんだろう……!
身体が……
自分の身体が勝手に動いて、二階の自分の部屋に向かっていた。
埜に「おかえり」も言っていない。
仕事から帰ってきた埜に会いたくないと心の中の誰かが叫んでいて、それに従ってしまった。
玄関から二階へ上がる階段は近いから、俺の謎の行動は埜にも伝わったはず……
「お前何無視してんだよ」
そう絶対言われるはずだ。
……でも……
わかっていてもどうすることもできない。
なんか俺……
雑誌のなかの埜にムカついてる……?
なんで?
でも見ていて凄く嫌だった。
心臓に重みを感じるこの嫌な違和感が、俺の謎の行動を支配していた。
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