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第53話 ケビョウ

「何で俺のこと無視すんだよ」 …… や、やっぱり来たーーー! ノックもなしだ! さすが埜っ!! すぐ来ることはわかっていたので、ベッドの中に入って頭からすっぽりと布団を被っていた。 ……どどどどうしよう。 何故かとても顔を合わせたくない……見たくない。 「お、おかえり……」 「……布団の中から言う言葉かよ。どうした?」 「……」 気配で埜が近づいてくることが分かって、内心焦る。 顔が見たくないからだって言ったら絶対ブチ切れるだろう。 埜が俺のベッドに腰かけるのが分かって、さらに考える余裕がなくなってきてしまった。 「中……」 「ご、ゴメン。きゅ急に気持ち悪くなって……吐きそうで……で、で」 「……」 「あああ頭も……痛い……っわ!」 言った瞬間にガバッと布団を引きはがされてしまい、盛大に焦る。 心の準備も何もさせてもらえない!容赦ないのはいつものことだけど! 無表情の埜と視線が絡んでしまい、急に泣きたい気持ちになってしまった。 そしてぺチイと額に埜の手が当てられて身体がびくりとなる。 「……」 「……」 「……顔赤いな、体温計持ってくるわ」 「……は、はい……」 少し冷たい埜の手が額から離れてホッとする。 でも埜の視線は俺にじっとりと注がれていたので、埜のことを直視できずにいた。 目をみたら仮病がバレてしまうかもしれないと思った…… 暫く視線が注がれ、頭を撫でられたのでドキドキしてきてしまう。 ……この感じヤバい! キスされる……? そう思ったら緊張で身体が強張り、本当に頭が痛くなってくるような気すらしてくる。 しかしその予感は外れ、埜はそのまま立ち上がり部屋を出て行ってしまった。 …… な、 なんだ…… キス……しないのか…… …… ホッとしたと気持ちと、急に切なくなってきてしまいジワリと涙腺が緩んでくる。 キスされたらされたでドキドキするから困るけど、されなきゃされないで物足りないって思った。 なんだよこれ…… 無理矢理にでも…… キスして欲しかった…… ……そう思った俺って!? なななななんかまるでっ!!!! 「おらーー!中っ!!とっとと熱測れっ!!」 バーーーンと勢いよくドアを開ける埜に驚いて思考が吹っ飛んでしまった。 だからノックしろよーーー!!!

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