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第93話 バレンタイン1
埜
「あのさ、埜」
「んぁ?」
「バレンタインのチョコ……いる?」
「……」
風呂から出たから次どうぞと、中が俺の部屋に声をかけにきた。
そのついでに聞かれたその言葉。
バレンタインのチョコが欲しいかどうか。
直球で聞かれた。
目の前にいる景森中也は同い年の義理の兄だ。
そして何を隠そう俺の恋人でもある。
風呂上がりの中の濡れた髪やホカホカの赤い頬は美味しそうだし、シャンプーの匂いはたまらなくそそられるし。大きめのスウェットから覗く鎖骨は色っぽい。
その鎖骨にうっすらついている痣は何を隠そう俺がつけた痣だった。
家族がいなければこの場でキスをして押し倒し気持ちいいことをしたいところだけど、あいにく父さんも奈津子さんもまだ起きていた。
……
俺の中は今日も可愛い。
そう毎日思っているんだから、中からのバレンタインチョコなんて嬉しいに決まっている。
それなのに俺は……
「俺、毎年のバレンタイン、いくつチョコもらってるか知ってる?」
「えーと、いくつかわかんないけど、恐らくいっぱいかな?」
「そう、事務所にも届くし学校の女子からももらうんだぜ。食べきれないくらい。中にも分けてやるよ」
「あ、ありがとう。そっか……そうだよな、埜はいっぱいもらうんだもんねわかったー!あ、風呂、埜が最後だから早く入りなよ」
「はいはい」
「んじゃ、おやすみ~」
パタン
「…………」
あれ?
ちょっと待て?
俺今何て言った?
思ってもない言葉が口から出てしまった気が……
中にも分けてやるよなんて何言ってんだ俺!
今の中のリアクションは、じゃぁチョコはいらないねってことになってしまったのでは。
……チョコ……いるし!!
中からのバレンタインチョコいるし!!!
だけど、
「チョコくれ」
なんて俺からは絶対に言えない……
絶対!言えねぇ!!!!
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