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第98話バレンタイン6
埜
「……」
「……」
「……どう?」
「……ん、食える」
あったかいオムライスを頬張りながらそう答えた。
美味しい……ちゃんとオムライスになってるじゃん。
ふわふわ卵ではないけれど、かけてあるデミグラスソースが美味いので全然美味しくできていると思った。
なにより中が作ってくれたことが嬉しくてドキドキしてどう答えたらいいのかわからない。
「スゲー美味いよ。ありがとう」
そう一言いえばいい。
そう言えば中も喜ぶだろう。
だけど俺には言えなかった。
我ながらひねくれた性格だと思うけど、中が相手だと言えることも言えなくなってしまう。
相手が女友達ならば普通に言える感謝のセリフも中にはなぜか言えない。
「よかった~」
ホッとしたように中がふにゃっと笑うのがスゲー可愛いし、スゲー抱き締めたい。
だけど、まだ親が起きている気配がするから手が出せないのがイラつく。
チョコではなくてオムライスを作ってあげようと考え、密かに練習していたことを楽しそうに話している中が超ヤバい。
だーー!俺の中!可愛い!
つーか群衆のチョコ何かよりお前のチョコの方が欲しいに決まってんだろ!バカ!
何周りに!俺に!わけわからん気使ってんだよ!
でもオムライスバレンタインも嬉しい!!
「御馳走さん。まぁ、中にしては良くできたんじゃね?……来年はもっとレベル高いの作れよ」
「うん!わかった!頑張る!」
よしよーし!これで来年も中の手作りオムライスが食べれる!
そう心のなかで喜んだ。
「じゃ、これやるよ好きなの食え」
そう言いながら本日の戦利品を中の前にドンと置く。
「え、だってこれは……」
「あのなぁ、この量のチョコを俺一人で食えると思うか?こういうのは家族で処理するのに限るんだよ。協力しろ。ほらこれ食え」
そう言いながら中に市販のチョコをひと箱開けさせた。
市販と言っても高級チョコレートだから味は保証付きだ。
「凄っ!ピカピカで綺麗!食べるの勿体ないなぁ……じゃぁこの白いやつ食べていい?」
「食え食え」
「……!!う、うま!超うま!」
「だろ?これ一粒500円くらいするんだぜ」
「!!!」
驚いた中の顔が面白くて自然と笑みがこぼれる。
ついつい中には意地悪なことを言いたくなってしまう俺って本当性格悪いよな。
「じゃ、埜にも……はい」
「……」
中が一粒手にして俺に差し出したので素直にあーんしてもらう。
口に含んだチョコはビターな色をしていた。
口内いっぱいに大人の味が広がったところで隣に座っている中の顔を両手で挟み、強引に唇を奪った。
そのまま舌を絡ませ中の甘い口内にビター味を押し込んでいく。
……抵抗しても無駄だ。
親が二階からおりて来ない限り離してやるものか。
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