3 / 9

第3話「担任と生徒会会計」

茜雲は与えられた資料を鞄に潜ませると、今日の夕方話し合う内容を脳内で整理しながらも 職員室がある本館へと向かった。 茜雲がこの度入ることとなったこの学校は、元々は明治時代に建てられた歴史ある学校だ。 元々貴族や財閥の息子たちの育成機関として作り上げられ、時代に合わせて学校も変化を 遂げて言ったのだが、もとより男子校であり、女子校も少し領内を挟んだ向こう側にあるが よほどの交流がない限りほぼ幽閉された場所だ。 初等部から大学まであるこの学校は「信明学園」と呼ばれている。 人を信じ、明るく導く学びを得ろという意味だったらしいが、今やその面影はない。 叔父たちがいた頃はまだマシだったが、ここ10年あまりで一気に腐敗していったらしい。 母校のそんな異変を知って大学で経営学を学び、会社を立ち上げ、軌道に乗りかかっていた 叔父が仲間を引き連れて買い占めたのが去年の話。その時から茜雲は聞いてはいたが、随分 時間が食っている事に、もう一人の叔父が心配して聞いた経緯から自分が必要になったらしい。茜雲の手がいることに最初”女帝”は渋っていたはずだろうけど、何か状況が変わったのか 四月から行きなさいという事になったのだ。 できれば茜雲としては動き回りたくなかったのだが、仕方あるまい。 ”女帝”である彼女の命令は絶対なのだ。 だが、渡された資料を思い出しながら茜雲は少し口を釣り上げた。 もし、己の勘が当たっているならばまさしく最高のチャンスなのだ。 しかもこのチャンスを失えば、次はない。 やつらはそう簡単に出てくる集団ではないから。 「取りあえずここだな、職員室」 色々考えながら歩いているうちに職員室についたので、茜雲はノックをして叩くと 軽く頭を下げて入った。 近くにいた少し30代ほどの黒髪の職員が茜雲に気づいて振り向くと 「おや、もしかして北極先生の所の子かな?」 尋ねる様に聞くと茜雲はこくり頷いた。するとその職員は 「北極先生、遅れてきた子、来ましたよ」 呼ぶように声をかけると端の職員机で作業をしていた黒髪のエアーマップマッシュの 先生が顔を上げた。目が合うなり茜雲は軽く頭を下げると、北極先生と呼ばれた講師は 急いで名簿と何かを手に取って茜雲の元へ向かった。 「遅くなって済まない。戸川君。担任の北極です。よろしくお願いします」 頭を下げて言うと、茜雲も笑顔で 「いえ、こちらこそ家庭の事情とはいえ数日遅れて申し訳ありませんでした」 頭を下げて言うと、星夜はにっこり笑うと 「おうちの事情は仕方ない。取り敢えずクラスのSHR始まるので行きますね 四方先生、ありがとうございます」 声をかけた職員にお礼をいうとそのまま廊下へ扉に向かって歩いたので 茜雲も素直についていく。 二人で廊下を出て横並びに歩きながら歩いていくとしばらくしてから茜雲が 口を開けた。 「なんか本当に俺らの手いるの?これ」 なれなれしい口調で話す茜雲に星夜は思わず持っていた名簿板で軽く叩くと 「お前バカか!!!いくらここで喋ったらバレるだろうが!・・・あいつが いると判断したからいるんだろ?本当にお前は・・・」 溜め息を付きながら言うと、茜雲は 「まぁ、違和感はある程度あるけどな・・・まぁどのみち新入生歓迎会には あいつも合流できるかな?」 脳内にいる人物を思い出しながら言うと、星夜は誰かすぐに分かったのか 「・・・まじであれも投入するのか?大丈夫か?あいつ・・・家絡みで 色々あって・・・あれなんだろう?」 困惑する様に言うと、茜雲は口を釣り上げて 「だからこそいるんだよ。あれは色々と役に立つからね、それに一番 メンバー見ている限り打撃与えるに向いているから。ただ心配なのは 学力かな・・・あいつ英語壊滅だからな・・・」 溜め息を付きながら言った。そんな茜雲に星夜も 「・・・それ駄目な奴だろう・・・まぁ、いいか。・・・彼の弟もこの 学校に入学しているしな。兄弟同じ学校に通うのは数年ぶりじゃないかな」 思い出す様に言うと、茜雲は目を見開いた。そしてすぐに目を戻すと 「ああ、あれか・・・外国にいた弟か・・・ってどこだ?」 尋ねる様に聞くと、星夜は苦笑しながら 「音楽科だ。Mrsマダムの領域、そして枠は特待生といえばわかるか」 尋ねる様に聞くと、茜雲はおお!と思い出す様に手を叩いて 「あれが近くにいるなら大丈夫だね。あいつも僕も同じぐらい実家と 兄を嫌ってるならいい。どうして昼休みに全員顔合わせするだろうしね」 そういった瞬間、廊下に足音が聞こえたので星夜と茜雲はすぐに他人の 振りをする。するとその先にいたのが、千草色のアシンメトリーミディアムショートを した黒茶の生徒だった。星夜はすぐに誰か分かったのか 「新堂?もうすSHR始まるぞ」 尋ねる様に聞くと新堂と呼ばれた青年は顔をあげて 「あ、北極先生。済みません、友人がまた具合悪くしまして、保健室に ・・・もしかして遅れた子ですか?」 後ろにいる茜雲に気づいて尋ねると、星夜は 「ああ、うちのクラスの子だ。ちょっとお前の友人と同じで 病気持ちなんだ。それで数日ほど入学が遅れた。戸川君、こちら生徒会役員の 会計である新堂可仁君(しんどうかに)だ。まぁ生徒会役員の中では比較的マシな子だ」 苦笑しながら言うと、茜雲はだまって下げると、可仁は 「まぁ、・・・毎度ながら他のメンバーが迷惑かけてすみません。戸川というと 理事長の甥っ子さんですか?」 尋ねると茜雲は 「正式には理事長の姉の子です。色々あって幼少から病気治療の為に 生家ではなくて母の実家の病院経営している戸川にいるんです」 説明する様に言うと可仁は 「そうか、それは・・・ずいぶん大変だな。無理しないように。済みません 先生、そろそろ戻らないとやばいのでここで失礼します」 そういうと可仁は急いで戻った。彼の姿が見えなくなると茜雲は 「まじであのくそ兄貴関係者と2人目なんだけど、接触するの!」 小声言うと、星夜は苦笑しながらも 「仕方ないだろうが・・・お前だって五大財閥の一つ水波の嫡子なんだから。 いくらメインが戸川とはいえ元々は水波茜雲(みずなみあかね)なんだから: そういうとそのまま二人はクラスへと向かった。 五大財閥。 それは国政は国会議員から選ばれた内閣総理大臣が国政を動かすと 言われているが、実の所裏から更に国政を支えているいわば裏の国政と 言われているのががこの五大財閥だ。 トップに立つ宗家(そうけ)を初めて、水波(みずなみ)、風道(ふうどう) 新堂(しんどう)、眞羅(しんら)の5つの財閥を指差す。 彼らはそれぞれ各分野の専門でありながら全ての国政に対してアドバイスをしながらも 各自会社を持っていると言われている。 戸川茜雲はその一つ水波家の次男でもあるのだ。 「・・・まぁいいですけど。それぞれ抵抗する駒はこちらに用意してあります」 そういうとそのままクラスの前についた。すると、星夜はストップをかけて 「じゃぁ、遅れた戸川君を歓迎する為にしばらくそこで待っていてください」 にっこり笑うとそのまま扉を開けてすぐに閉めると 「こらー!そろそろ始まるから座れ!後、遅れてきたクラスメートが来たから 早く着席しろ!」 叫ぶようようにいうとざわざわしていた教室が一斉に静かになった。 「というわけで、一日遅れになったがクラス全員が揃います。 はい、戸川君入ってきてください!」 扉の外で待っていた茜雲に声をかけたので、茜雲は素直に扉を開けて入ると そのまま教卓の前まで行くと立った。 茜雲が立ったところで、星夜はチョークを手に取って茜雲の名前を書いた。 書き終えた所で茜雲は改めて頭を下げると 「初めまして、ちょっと体調不調で数日遅くなりましたが 戸川茜雲と申します。理事長は叔父です。後戸川病院の院長も叔父です。 生まれつきちょっと訳ありで叔父の家に世話になっていたので、身体が 少々弱いですが、よろしくお願いします」 自己紹介をした。ふんわり笑う笑顔にクラスメートも思わず釣られて 笑ってしまう。 「・・・恐ろしいな、茜雲は・・・」 呆れたように勇魚が溜息をついて言うと、瑠射は真顔で 「え?それが茜雲ちゃんだからでしょ?」 いうので勇魚はもう何も言いまいと横を向いて溜息をついた。 その後、瑠射の隣の席に座ると、SHRが再び始まりました こうして茜雲の慌ただしい学園生活が始まったのである。

ともだちにシェアしよう!