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第5話
外はすっかり暗くなり、保育園の駐車場に晴の車が入るとヘッドライトがちらほら停まっている車を照らした。この時間まで保育をお願いしている親の面子は大体決まっていて、学年が違う親同士でも顔馴染みになっていた。
「ありがとうございます」
朝と同じ部屋に迎えに行くと、先生がお帰りなさいと声をかけながら奏多を呼んだ。
奏多の支度を待ちながら時計を確認すれば6時半、2分前だった。
「今日は公園に行って沢山遊んだね」
先生に話しかけられると嬉しそうに頷いて晴に抱っこをせがんだ。
「公園いったんだ。よかったな」
晴の問いかけにも嬉しそうに頷くと、奏多は先生にタッチをしてバイバイと手を振った。
「じゃ、家に帰る人ー?」
「はいっ!」
最近の奏多は何々する人、などの言い方で話しかけると決まっていい返事を返してくれ、それが面白く可愛い晴はその声を聞きたくてその言い回しをしていた。
好きなDVDを付けて少しの距離を走ればすぐに自宅だ。
「はい、到着」
玄関に入った所で奏多を降ろして廊下の電気を付けた。
「奏多、手洗うよ」
リビングへ一目散に走って行った奏多を洗面所に呼んで踏み台の上に立たせ、伸ばした手に泡の石鹸を出してやれば上手に手を擦り洗っている。
その脇で作業着から部屋着に着替えた晴は奏多を降ろしてキッチンに立った。
「ハヤシでいっか」
野菜室からタマネギ、冷凍庫から牛肉を取り出し夕飯の準備を始める。
電子レンジの解凍ボタンを押し、タマネギの皮を剥いていると、テレビを見ていた奏多がいつの間にか晴とキッチンの間に入り込み料理の邪魔をはじめた。
「パパ!パパ!」
「わかった、わかったからちょっと待ってて」
そう言いながらも料理を続けるが、1歳半とは思えないくらいの力の強さに負けた晴は奏多を抱きかかえた。
「なんですか?」
「あっちー」
抱っこされる晴の後ろを指差す先は食器棚だ。
「もう少しでご飯なのに食べられなくなっちゃうよ?」
「かーし!かーし!」
「はああ~」
食器棚の一番上の段には蓋付きの箱が閉まってある。そこにはお菓子が入っていて、奏多が勝手にいじれないようにしたのはいいのだが、在処を知っている。
最近の晴の悩みはこれで、保育園から帰り、夕飯の支度をしていると必ずと言ってお菓子を欲しがり、夕飯をあまり食べてくれない事。
あの時間まで保育園にいればお腹が減るのは当たり前なのだが、どうにかならないかと悩んでいた。
「帰ってきてすぐ飯が食えればなぁ」
愚痴りながらクッキーを奏多に渡し抱っこから下ろせば、そそくさと自分の椅子に座りテレビを見始める奏多の後ろ姿に晴の眉が下がった。
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