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第9話

──────── ─── 「晴ちゃん、なんかいいことでもあった?」 夕方にさしかかった金曜日。 溜まりに溜まったデスクワークをしていると、工場から戻ってきたおばちゃんにそう言われた。  「鼻歌なんてうたっちゃて、なんだかご機嫌じゃない」 完全に無意識だ。 恥ずかしさに顔を赤くした晴は頭を掻いた。 俊貴と約束の電話してから数日が経ち、明日の土曜が当日。 友達と会うなんていつ振りだろう。 しかもそれが一番仲のよかった相手。何を話せばいいかの不安もあったが、嬉しさと楽しみの方が勝っていたのだ。 「久しぶりに友達と会うんですよ」 「あら、てっきり彼女でも出来たのかと思ったのに」 「めでたい知らせじゃなくてスンマセン」 茶化すように笑うと、晴は職場を後にした。 奏多を迎えに行き、夕飯を作り風呂に入る。 眠たそうに欠伸をする奏多の髪を拭いていると、テーブルに置いてあるスマホが着信を知らせた。 「はいはいはい」 眠気に愚図る奏多を抱っこし画面を見れば、俊貴からの着信。 通話をタップしてからスマホを持ち、耳に当てた。 「おつかれ!」 「元気だな」 テンションの高い声に、晴は呆れるように鼻で笑った。 「まだ9時だぜ?」 「もう、9時だ」 奏多と二人で暮らすようになった晴の生活は、完全に朝方に変化し、寝かしつけながら自分も寝てしまうことはしょっちゅうだ。 「明日が楽しみすぎて寝れっかな」 「小学生かよ」 「なんだよ、晴は楽しみじゃねぇのかよ」 昔と変わらず、思ったことを素直に口に出す俊貴の言葉に思わず吹き出した。 「奏多が眠いって愚図ってるから」 「ああ、そうだよな、悪い。明日すっぽかすなよな」 「お前がな。じゃあまた明日」 おやすみと返した俊貴の声を聞き終えた晴は電話を切り、寝室で奏多と添い寝をした。 そして予想通り、そのまま一緒に寝落ちてしまった。

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