55 / 194

第55話

「もういいだろ……。」 玲の低い声が静かに家の中に響いた。 「に、兄ちゃん……?」 「真木は母さんの人形じゃないんだ。 いい加減成績ばかりみてないで"真木"をみろよ!!」 玲はそれだけ母に言うと真木の手を引いて自分の部屋へ向かった。 母はと言うと複雑な表情をしそう、と一言だけ言ってリビングへ戻っていった。 玲はベッドに座り真木はその前に立って見つめる。 「……何でそこまで俺を庇うわけ? 俺は…護ってくれなんて頼んでない。 なのに、何でそんなに……」 どうしてだろう。 こんなにも大事に想ってくれて こんなにも好きでいてくれてるのに、イライラしてしまう。 胸の奥がズキッと痛む……。 「…お前を愛してるからだよ。 お前を護りたいと思うのは俺の勝手な想いだ。」 真っ直ぐに真木を見つめる目は濁りなく一途に想う目だ。 だけど何をしても弟の自分は兄には勝てない。 こんな時だって彼のこの目に負けたような気がするんだ。 だからこそ 「俺は兄ちゃんが嫌いだ。」 「…………。」 「………っ。」 言ってしまった。 これで完全に見限られるかな。 それでもいいや。 その方が自分も楽だ。 その程度の人間なんだって軽蔑してくれれば こんな思いをしなくてもいい。 だが口を開いた玲から返ってきた言葉は意外なものだった。 「ああ、知ってるよ。」 「え?」 「お前が俺を嫌いだと思ってることは知ってる 時々そう言う目で俺を見てるから。」 「………っ!!」

ともだちにシェアしよう!