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第9話

『帰ろっか』 彼は手を解いたあと、いつものような穏やかな笑みでそう言った。 二本持って来たから、と言われ傘を受け取り、二人並んで雨の中を帰った。 ˹ さっき抱きしめてくれたのは何故ですか? ˼ 聞けないのは、自分に勇気がないからだけじゃない。 淡い期待を持っているだけなんだ。 紫薫さんは優しいから、だから泣いてる俺を抱きしめてくれた。 たったそれだけ。 当たり前のことなのに。 榊さんの言ったように幼い頃見てた夢物語は随分自分に都合の良かったものだった。 現実は優しくない。 彼の優しさが今は酷く辛く、苦しい。

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