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第10話

屋敷に入ればすぐに使用人がやって来て、俺の姿を見れば、即座に綺麗な白い拭きものを持ってきてくれた。 紫薫さんそれを受け取ると、俺の肩を支えながら歩いた。 それを俺はただ呆然と眺めた。 自分がそこにいるのを間接的に見ているようだった。 気付けばガチャンと錠の閉まる音がした。 煉瓦造りの暖炉に質の良さそうな椅子。 机上には作りかけの時計。 鼻腔を擽(クスグ)る優しい香り。 紫薫さんの部屋だと気遣く。 「結糸、少し話そうか」 彼の表情は濡れた瞳では捉えることが出来なかった。

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