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第15話
「そうだね。この空っぽの時計が藤堂家。で、この小さい歯車が結糸」
一つ一つ手に取ってわかり易く教えてくれる。
「でも紫薫さん。俺いらない子だから「それはもうダメ」」
優しいけれど確かな声。
「確かにね、この藤堂家の中で結糸は小さい歯車だよ。でも結糸がいなきゃ時計は働かない」
「俺がいなくても変わらないよ」
むしろ働きやすくなるっていうのは胸に秘める。
「変わるよ」
ニコっと得意げな笑み。
「結糸がいないとね、栗栖がお給料貰えなくなる」
「え?」
「ハハっ」
紫薫さん楽しそう。
吊られて笑ってしまう。
「やっと笑った」
目を細めて唇が弧を描く。
一瞬のことで、でも胸が高鳴るには充分だった。
「この歯車は小さな影響しか与えていない」
「…」
「でも結糸の働きで栗栖が回って、それでまたほかの使用人たちが回って、大きく大きくなって、一つの時計になるんだよ」
それにね、と頭を撫でながらこう言った
「俺は結糸がいないと寂しいし嫌だ。栗栖と同じ、いなきゃ回らない」
「お給料は出ないよ?」
彼はそうだね、とフフっと綺麗な顔で笑った。
「俺は結糸が大切だよ」
だから、と彼は続けた。
「結糸はいらない子なんかじゃない。」
涙が頬を伝う。
どうして泣いてるのか分からない。ただ心が動かされる。
「それにね、こんな時計ばっかり見るからダメなんだよ」
楽しそうな顔がどこか遠くを見据えたよう。
「藤堂家だけに縛られちゃダメだよ。もっとほかの居場所がある」
真剣な眼差し。
何を考えているのかな。
「ほかの場所なら結糸は大きな歯車になれる。他の誰からも何も言われない」
そしてまたいつもの優しい表情に戻った。
「どこへ行っても俺は結糸をおもっているよ」
だって
「君が大切なんだ」
たった一言。
暗闇の中で照らされた。
──
大好き。大好き紫薫さん。
だからせめてそばにいさせて。
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