3 / 12

龍の空

龍空は結局、8時きっかりに電話を掛け直してきた。 俺は飯を食い終わっていたから、まあ半分義務的に電話を取って、龍空の声に返事をした。 「何だ、リク」 『へへっ、ちゃんと8時まで待ったぞ! 褒めてくれ!』 能天気な龍空のその声に溜息を思い切り吐き出して、俺はケータイを持ち直す。 傍らの椅子に背を預けて龍空を問い質すことにした。 「んで、何の用だ」 良い気分であったのにしつこくコールをされた恨みがある。愛想のような物は──龍空に対しては何時ものことではあるが──絶対に見せてやらない。 『んっとなー』 曖昧な返事。苛つくが、待たなければ龍空は答えを出すことをしない。 小さく舌打ちをして脱力する。 ……と、そこでインターホンの音。 仕方が無いので龍空には、客が来たらしいので少し待て……と言っておく。 丁度良いタイミングだなと内心思いながら、俺は扉を開け……そして勢い良く閉めた。 「……何時の間に来た」 電話の向こう……そして扉を一枚隔てた向こうに居る龍空に吐き棄てる。 電話と、そして扉の向こうからは楽しそうな笑い声が聞こえた。……俺の身にもなれよ、糞が。 『8時に掛け直せってレイトに言われた後、家を出たんだ!』 能天気な龍空の声。……諦めるかと溜息を吐いて電話を切った。 そして嫌々ながらも扉を開いてやる。 「おじゃましまーす!」 「邪魔すんなら今すぐ帰れ」 そこには龍空という俺の同級生が立っていた。 悩みなんて1つもなさそうな明るい茶色の瞳は何時も通りキラキラしているし、セットをサボったんであろう色素の薄い髪は何時も通り跳ねまくっていた。 うん、此奴は紛れもなく龍空だ。龍の空と書いてリクと読む、可笑しな同級生。 「何時も通り辛辣だな、レイト!」 「無愛想は俺の基本設定」 俺のような人間に何の利益があって絡むのかは解らない。たまには理由が知りたくなる。聞くのは面倒だが。 龍空は、何時ものように俺の部屋まで上がり込んでベッドを占領する。 何時も通り蹴ってやれば文句を言いながらも座り直す。最初からそうしろよ。 「珈琲か麦茶」 「レイト!」 「俺は飲みもんじゃねーぞ糞が」 「じゃーレイトの血を飲む!」 「吸血鬼か。お望みならニンニクを鼻の穴ん中に突っ込んでやる」 「遠慮しとく!」 下らないことを言い合いながら、俺は腕を引かれるままに龍空の隣へ腰を下ろす。 龍空は何も言わず、俺の首筋に顔を埋めた。俺は何時も通り何も言えない。拒否したって可笑しくないだろ? 普通なら。……だが、俺は何も言えなくなるんだ。 勿論龍空以外にこんな事をやられたら……怯えるか激情するかして、色々やらかす自信がある。 「……シャワーも浴びてねーし汗臭いだろ」 「レイトだから良いの」 意味の解らん事をほざく龍空。 呆れて、何時も通り諦める。ここまで言うとき、よっぽどじゃ無きゃ龍空は離れない。だから諦めるしか無いんだよ。 ……ああくそっ、また変に息が落ち着く。

ともだちにシェアしよう!