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変化

かなりの時間──4時間くらい?──が経って、漸く龍空は腰を上げる。物凄く嫌そうに、顔を歪めて、溜息を吐きだして。 そりゃ俺の気持ちだよ、なんて口には出さず龍空を部屋から追い出す。 何時もならばそこで、龍空は俺の家から出るはずだった。……だが、何故か龍空は動こうとしない。立ったままで俺の服の裾を掴む。 「……なんだよリク、気色悪ぃな」 その変化がとても不自然で、俺にとっての何かを壊してしまいそうで──それが元々壊れて居るものだとしても──嫌だった。 龍空の体を物理的に引き剥がして、言葉で精神的に……というか時間をも突き放す。 「レイト、零音……俺、もう少しここに居ても良いか?」 そこで言葉を失った。 龍空はこれまでに一度も、俺とのパターンを破ったことは無い。作り出すことはあっても、既製のパターンを壊すことはしなかったんだ。 だから、余計に可笑しいと思った。声色も何処か……真剣みを帯びている。 「もう昼飯時だろ……何言ってんだお前」 だからこそ離れたかった。 俺は頼られたくなかったし心を許す気も無かったから、余計な期待を掛けさせるようなこともしたくなかったんだ。 龍空には悪いかも知れないが、止めて欲しかった。 ……ああくそっ、俺自身が不自然で腹が立つ。 、、、、、、、、、、、、、 龍空には悪いかも知れないが 俺は何を気に掛けている? 龍空を優先させているのか? 俺の最優先は俺一人の筈だが? 龍空はただの同級生で、既製のパターンに組み込まれた……組み込まされた一人の“他人”だ。所詮は人間。心を許す道理は無い。 荷物を龍空の肩に掛けさせて、零音零音と俺の名をしつこく呼ぶ龍空を玄関まで追い遣る。ふざけるなよ……。 龍空の瞳を真っ直ぐ見据えて、俺は吐き捨てる。 「早く帰れ。理由が無いなら、俺のパターンを壊すんじゃねえ」 同級生であろうと関係ないからな、と内心で呟いて龍空の鼻先で扉を閉める。 ……暫く残る、龍空の気配。扉の向こうで何も言わずに俺を見ている。……扉を透かして、扉に寄り掛かる俺を見ている。見られているという感覚。 やがてその気配も遠くに去る。……俺は重い体を引き摺って洗面所に向かった。 鏡を覗き込んで、何時もの事ながら酷い顔をしているな、と独り言ちる。 くま濃いし白髪交じりの髪はぼさぼさだし……瞳は血の色してるし。 仕方なく蛇口を捻る。……流れ出る水。掬って、喉に流し込む。 ……嫌な予感が、厭な予感がした気がしたんだ。でも俺は、パターンを壊すであろう“ソレ”を完全に無視したかった。 全部を忘れて、取り敢えずは空っぽのままで居たかった。龍空なんて言う存在が、俺という存在が居たことすら忘れてしまいたかったんだ。 棚から薬を持ち出して、飲み下す。 ……収まらない苛つき。 腹立ち紛れに壁を殴った。……痛みは無い。ただ、じんじんと痺れるような無力感が俺の体の中を走った。 自分で選んで行動した事だというのに、なんて未練がましいんだ俺は。カスだな。 「……消えてしまえ、俺なんか」

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