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記憶
痛む拳を開き、壁に寄り掛かる。
手を開いて瞼を押さえる。……薬の副作用。クソ眠くなって来やがった。
だがここで寝れば悪夢がやって来る。落ち着くまで起きていなければ、……俺はまた不安定になる。起きていなければ。
だが、俺の意思に反して体からは力が抜けていく。……気力が足りていない。起きていようと表層心理で思っていても、深層心理はもう足掻いていないのか……。
やばい、視界が……霞む。
駄目だと何度も嫌がったって、あいつは俺の体を貪った。嫌だとあいつから逃げようとしたって、年齢に大きすぎる差があったから無理だった。
世間では“父親”と呼ばれる男から俺は凌辱され、世間では“母親”と呼ばれる女から、俺は何度も繰り返し暴力を振るわれた。
だが奴らは、俺が保護された後もそれを【愛情】だと言って何度も施設に押し掛けた。
俺は結局、施設内での優しさに耐えられず……そしてあいつらから離れたい一心で、高校からは奨学金やら補助金やら諸々活用して一人暮らしを始めた。
施設の先生からは物凄く“心配”されたけど、俺にはよく解らなかった。
「げほっ、げほ……」
喉に絡む様な咳。
重い目蓋を開けて、フラフラ揺れながら立ち上がる。……頭が重い。
バクバクと煩く耳元で叫び散らす血液の音に苛ついて、俺は鏡の向こう、自分の顔を睨み付けた。色が悪い。
「なんだって……今さら、思い出さなきゃなんねーんだよ」
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