7 / 12

時間(R18)

所々痛む体を引き摺って、俺は大嫌いなパターンをなぞらなければ為らないことを知る。外を見れば既に夜。よって、俺はこれから海辺を一騒がせする事になる。 ……舌打ちをして、ぼさぼさでぱさぱさの髪を縛る。腕に手に足に包帯を巻き付けて、終いには口元まで隠す。 仕上げにカラーコンタクトで瞳の色を黒に変えれば、不良を脅かす何たらとか言う俺が出来上がる。 ……何処からどう見たって、俺からしたって不気味だよ。 時間が経ち、俺のどす黒い興奮が収まるまで誰かを生け贄にする。そんな、獲物を探す俺が恐れられないのであれば、一体この世界の何が恐怖の対象になるんだ? だから、俺は嫌々ながらも外に繰り出す。 ……雲で月が隠れた。丁度良い。 俺は海岸に向けて歩き出す。 誰にも見られないよう影に息を潜めて。月が隠れている内に着いてしまおう、と足を速めた。 この時期の海辺なら、地域の暴走族やら不良の一団やらがたむろしているから。 ……だが俺の予想は何時もとは違い、外れた。 さざめく波の音。僅かに聞こえる衣擦れと荒い吐息、そして嬌声。水音が波の合間に聞こえてきて、俺は力が抜けていく事に気付いた。 そして湧き上がる、愛を望む渇き。 先程の悪夢がフラッシュバックする気配を感じ取り、俺は早くそこから逃げ出そうとする。 ……しかし、そこで気付いてしまった。 あそこに居るのは龍空だと。あれは紛れもなく龍空だ。……龍空だって? 「っあ、だめ、そこああぁあっ……!」 「おいおい、そんな姿誰かに見られたらどーすんだよ? それにお前せっかくかわいー顔してんだからさ……俺の名前とか呼んでみろよ、なァ?」 「やだ……やだやだやだやだあ……っ!」 哀しげに助けを求める瞳。……あの日の俺に影が重なった。 「おい」 気付けば腹の底からの低い声が出ていた。 龍空を性処理に使っている男を睨み付けて、俺は次の言葉を探す。 「俺のモノに、手ェ出すんじゃねーよ」 ……気付いたらそう言っていた。だがまあ、それでも今は構わない。だって龍空は俺のことが誰なのか解らないはずだから。 一段一段階段を下りていって、男に俺は近付いていく。……その度に濃くなるのは、俺が嫌いで嫌いで大嫌いな男の匂い。潮に混じった欲の匂い。 「っ、テメェは……!」 男は直ぐさま逃げ出した。 龍空だけをその場に残して。 ……残された側の龍空は半分放心状態のままそこに蹲っていた。俺は羽織っていたパーカーを肩に掛けてやる。 「何度出された」 喉を灼く感情を押し殺して、龍空の体を抱き上げる。……ずしりと重い。俺よりも大きな、命の重さだな。 震えだした龍空を見て、俺は諦める。これ以上何かを聞き出そうとするのは危険だ。 ポケットの中の金をふと思い出す。……確か、この前巻き上げた金は……在ったはずだ。 歩き始める。龍空を抱き抱えたまま。 向かう先は……適当なラブホでも良いんだ。取り敢えずこいつを一晩寝かせられる場所があればそれで良い。 ……落ち着かせてやれれば、何よりも良いんだがな。 腕の中で未だ僅かに震える龍空を恐がらせぬよう俺は何も言わず、そしてホテルに入った。

ともだちにシェアしよう!