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時間(R18)
所々痛む体を引き摺って、俺は大嫌いなパターンをなぞらなければ為らないことを知る。外を見れば既に夜。よって、俺はこれから海辺を一騒がせする事になる。
……舌打ちをして、ぼさぼさでぱさぱさの髪を縛る。腕に手に足に包帯を巻き付けて、終いには口元まで隠す。
仕上げにカラーコンタクトで瞳の色を黒に変えれば、不良を脅かす何たらとか言う俺が出来上がる。
……何処からどう見たって、俺からしたって不気味だよ。
時間が経ち、俺のどす黒い興奮が収まるまで誰かを生け贄にする。そんな、獲物を探す俺が恐れられないのであれば、一体この世界の何が恐怖の対象になるんだ?
だから、俺は嫌々ながらも外に繰り出す。
……雲で月が隠れた。丁度良い。
俺は海岸に向けて歩き出す。
誰にも見られないよう影に息を潜めて。月が隠れている内に着いてしまおう、と足を速めた。
この時期の海辺なら、地域の暴走族やら不良の一団やらがたむろしているから。
……だが俺の予想は何時もとは違い、外れた。
さざめく波の音。僅かに聞こえる衣擦れと荒い吐息、そして嬌声。水音が波の合間に聞こえてきて、俺は力が抜けていく事に気付いた。
そして湧き上がる、愛を望む渇き。
先程の悪夢がフラッシュバックする気配を感じ取り、俺は早くそこから逃げ出そうとする。
……しかし、そこで気付いてしまった。
あそこに居るのは龍空だと。あれは紛れもなく龍空だ。……龍空だって?
「っあ、だめ、そこああぁあっ……!」
「おいおい、そんな姿誰かに見られたらどーすんだよ? それにお前せっかくかわいー顔してんだからさ……俺の名前とか呼んでみろよ、なァ?」
「やだ……やだやだやだやだあ……っ!」
哀しげに助けを求める瞳。……あの日の俺に影が重なった。
「おい」
気付けば腹の底からの低い声が出ていた。
龍空を性処理に使っている男を睨み付けて、俺は次の言葉を探す。
「俺のモノに、手ェ出すんじゃねーよ」
……気付いたらそう言っていた。だがまあ、それでも今は構わない。だって龍空は俺のことが誰なのか解らないはずだから。
一段一段階段を下りていって、男に俺は近付いていく。……その度に濃くなるのは、俺が嫌いで嫌いで大嫌いな男の匂い。潮に混じった欲の匂い。
「っ、テメェは……!」
男は直ぐさま逃げ出した。
龍空だけをその場に残して。
……残された側の龍空は半分放心状態のままそこに蹲っていた。俺は羽織っていたパーカーを肩に掛けてやる。
「何度出された」
喉を灼く感情を押し殺して、龍空の体を抱き上げる。……ずしりと重い。俺よりも大きな、命の重さだな。
震えだした龍空を見て、俺は諦める。これ以上何かを聞き出そうとするのは危険だ。
ポケットの中の金をふと思い出す。……確か、この前巻き上げた金は……在ったはずだ。
歩き始める。龍空を抱き抱えたまま。
向かう先は……適当なラブホでも良いんだ。取り敢えずこいつを一晩寝かせられる場所があればそれで良い。
……落ち着かせてやれれば、何よりも良いんだがな。
腕の中で未だ僅かに震える龍空を恐がらせぬよう俺は何も言わず、そしてホテルに入った。
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