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真夜中(R18)

ホテルの部屋を借りて直ぐに俺が取り掛かったのは、龍空の服の洗濯。……俺以外の匂いが付いたことに、俺は不快感を隠せなかった。押し殺せなかった。 浴槽に取り敢えず龍空を突っ込んで、白濁液に汚れた服を浴室で洗う。……こびり付いて、ぬめっている。気色と気分が悪い。 「おいあんた」 俺がそう声を掛けると、カーテンの奥、浴槽の中で龍空が震える気配がした。 声が堅く、恐かったのだろう。 そう結論付けて、優しく声を掛け直す。 「あんた、今喋れるか? 今涙を流してしまえるか?」 ……沈黙。まあ仕方が無い。 溜息を呑み込んで、洗い終わった服を絞る。 「バスローブは置いておく」 それだけ告げて、俺は浴室から出ようと……した。 なのに腕を引かれたんだ。龍空はカーテンの隙間から、震える腕で俺の服の裾を掴んでいた。 俺は止めろとも言えず、服の裾を掴む龍空の手にそっと触れる。 「いか、ないで……」 熱を帯びた声。 どうしたのだと尋ねかけて直ぐに思い至る。薬を盛られたのだと。 俺にだって経験はある。そしてその意味はよく解る。龍空はこれまでに何度も──抱かれるまでは無いにしても──弄ばれてきたのだと。俺と同じ経験をさせられたのだと。 ……腹が立って、堪らなかった。 「クソが……っ!」 吐き棄てて、浴槽のカーテンを勢い良く開ける。……蕩けた目をした龍空の視線が、俺の視線と絡み合った。 「あんた、おいあんた!」 肩を掴んで揺さぶる。戻ってきて欲しい。薬に囚われてる奴を見るっていうのは……昔を思い出すし、勘弁して欲しい。 愛なんてのはな、結局あって無いようなもんなんだ。だから、その証明にもなるモノに、薬に、虚ろな行為に……龍空には囚われて欲しくなかった。 「自分を保て! 呑まれるな!」 俺みたいに汚れて欲しくなかった。虚ろに、空っぽになって欲しくなかった。 ……それなのに龍空は俺を見て、俺の体を見て、手を伸ばしてくる。 「ねえ……」 「馬鹿野郎!」 その手首を掴んで、顔の距離を詰める。……くそっ、龍空の目には何も映って無いって言うのかよ!? そうだとするのなら俺が、そう俺が龍空を頑なに拒み続けた意味は何処に行っちまうんだよ?! 「だいて……おれ、も、むり……」 涙に濡れた瞳を見れば、否が応でも俺の体は熱を帯びてくる。……だが、俺にそんな気持ちは微塵も無い。 幾ら強請られたとしても、幾ら龍空からの望みだとしても、そこに俺の“愛”は無い。 幾ら俺が龍空に好意を寄せているとしても、今の龍空にはそれは“関係ない”だろう。 今の龍空が望んでいるのは、薬で強制的に興奮してしまった体を鎮めること。そのための方法が、今の龍空には“交わる”という行為しか浮かばないんだ。 そこに愛は無い。あるのは単純な利害関係や本能だけ。 虚ろな瞳で、俺を求めて手を彷徨わせる龍空。俺の声なんて届いていない。……それはよく解った。 「……っ」 だから、俺は見ていられなくて、強く抱き締めた。……もう一度、もう一度だけで良い……あの綺麗な瞳に戻って、俺のことを見てくれよ……なあ、頼むから! 「眠れ、今だけは」 そんな感情を押し殺して、俺は龍空に囁く。見ていられないから、早く薬が抜けるように……眠って欲しかった。 かくんと、龍空の体から力が抜ける。 俺はゆっくり龍空の体を浴槽から抱き上げる。 瞳は固く閉じられていて顔色も悪く、心なしか体重も重くなっていたように感じた。 ……ああそうだ、あの男の精液の後処理もしなきゃ為らないんだ。 思い出して、右手の包帯を解いていく。……太股の上にバスタオルを敷いて、龍空をその上に座らせる。別に俺は濡れるのは構わなかったから、そのまま龍空の後孔に指を入れた。 一瞬震える龍空の体。……起こさないように注意を払いつつ、俺は更に奥へ指を進めていく。龍空の吐息が少しずつだが熱を帯びてきた。……良くない。早く終わらせてしまわなければ。 何かが指に触れたと感じた時点で、俺は龍空の中からそれを掻き出し始める。俺にとっては慣れたことだが……龍空は多分、慣れてない。 と言うか慣れていて欲しくない。 「ん、っは……」 喘ぎ始める龍空。……無意識なんだろうが、かなり色っぽい。確かに気を付けなければ襲わ……何を考えている。他のことを考えていろ俺。 ああそうだ、随分落ち着いたな。もう誰かを、そして何かを壊してしまおうという気分では無い。 龍空の傍に居るからか? ……複雑だ。 「あっ、やぁ……っ」 「もう終わるから……堪えてくれ」 夢現に俺を拒む龍空を諌めるように撫でて、俺は軽く下唇を噛む。もう少し、もう少しだ。 「っはあ……」 溜息を大きく吐き出して、龍空の体をシャワーで流す。 その後新しいバスタオルを引っ張り出してきて、濡れた龍空の体を拭く。……疲れた。 龍空にバスローブを着せると、俺はそのまま布団の中に放り込んでやった。……もうぐっすり眠っているのか、龍空は身動き一つしない。 しかし困ったことに、俺の体はもう興奮しまくっている。 理性的には全くそのつもりが無いんだが……昔の名残というか、何というかで。 「……」 誤魔化すつもりで、龍空のケータイを勝手に開かせて貰う。……何をするんだよ俺は。 取り敢えずとメモのアプリを開いて、少し思案する。……入れるだけで使っていなかった連絡アプリの招待コードをふと思い出した。確か、龍空も俺のアカウントを知らなかった筈。 まっさらなメモにそのコードを打ち込んで、下の方に2、3行メッセージを残しておく。 ケータイの画面を閉じて、俺はナイトテーブルに6000円ほど置いておく。 「……じゃあな」 それだけ告げて、俺は部屋から出て行った。 龍空は残しておく。……あいつには、一人になる時間が必要だからと、そう自分に言い聞かせて。 ……それが逃げだというのは、勿論解っていたけれども。

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