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生きてる side龍空
始まりは……忘れたかな。
唯一解ってるのは、俺はどうも周りからすれば綺麗な顔をしているらしいこと。親父は俺が10才の時に、そう言った。
それ以来俺の体は半分以上オモチャ。
親父に言われるままにフェラやらなんやらして、親父の小遣い稼ぎのために他の男の相手もする。
……昨日の親父は1万くらい積まれたらしく、俺は一日“あの男”に奉仕させられる羽目になった。
思い出しただけでも鳥肌が立つ。
あの男は小道具だとか言って、俺にきつめの媚薬を飲ませた。口移しで。
あの男は演出だとか言って、俺を海辺で裸にした。そして俺は犯される。
初めてがあんな男だったってことが、俺は嫌で嫌で堪らなかった。聞いていたのは“奉仕”という名の作業だけ。
でも幾ら気持ち悪い、なんて心の中で毒突いたって、媚薬のせいで体は幾らでも反応してしまう。
余りにも強すぎる快感。
このままイキ死にさせられるのかと、俺は日が落ちた頃から思い始めた。
そのくらいきつかったんだよな。
何度も何度も腹の中にあの男の欲を注ぎ込まれて、俺は正直なところ堕ち掛けてしまってた。
助けが来ないのは解ってた。海辺に来るのはよっぽどの物好きだから。暴走族やらがよくたむろするこの場所は、地元でも寄り付く奴は少ない。
だから、もう快楽に身を任せて時間が過ぎるのを待とう、と……口だけで嫌がりながら思っていたその時だった。
『おい』
腹の底から出てくるような、低く暗い声。
あの男の動きが止まったためか、俺の頭はその声のことが気になって仕方が無かった。
薬のせいでぼやける視界の中、何とか相手の顔を見ようとする。
……包帯を口まで巻きつけた、黒い瞳の人間。俺でさえ知っている。あいつは“悪魔”と呼ばれる男。子供も大人も男女だって関係無しに刈り尽くす、悪魔だ。
『俺のモノに、手ェ出すんじゃねーよ』
『っ、テメェは……!』
……だけど何でなんだ? 俺は悪魔に助け出された。
肩に羽織っていたパーカーを掛け、何度腹の中に出されたのかと尋ね、捨て置かれた俺を助け起こした。俺が思い出して震えると、何も言わなくても良いと言いたいのか、そのまま抱き上げる。
軽く顔を顰めた彼は、だけれどもそれ以上は何も言わないでくれていた。
したこと、と言えば……ただ俺を安いラブホの浴槽に突っ込み、俺の汚れた服を洗い、腹の中からあの男の精液を掻き出した。ただそれだけ。
媚薬の熱に浮かされ、手を伸ばしたときでさえ彼は何もしてこなかった。
気を失ったフリをした俺を抱き上げて、バスタオルの上に座らせられたときは何かと思ったし、体が疼いて“期待”をしてしまったというのに。
彼は自分の手から包帯を外し、俺の体の中に指を入れてあの男の精液を掻き出した。
どこか優しくて、注意深かったあの手付き。
俺はその後、体力の限界が来て本当に気を失ったんだが……まだ、覚えてる。
「っ……生き、てる」
軋む身体。それを無理矢理引き摺り起こして、俺は自分の掌を見詰める。
媚薬の熱はもう引いていた。
枕元には俺のケータイと、6枚の1000円札。
不思議に思ってケータイの画面を開く。……メモのページがいきなり表示された。
そこに表示されたのは、某連絡アプリの招待コード。その下に3行のメッセージ。服は風呂場に干してあり、6000円は宿泊代に充てて欲しいとのこと。
そして、何かあればアプリから連絡をして欲しいと言うこと。
俺の顔はその時、意図せず緩んでいた。
何だ、彼は噂ほど冷酷な人間じゃ無いじゃ無いか。状況もあっただろうけれど、俺を助けてくれた上に連絡先までくれている。
そう思うと、零音に会えた以外にも少しは良いことが在ったんだなあ、なんて。
時間を確認する。今は7時。零音はもう起きてるはず。
電話帳から直接コールした。……5回は鳴る。
『朝っぱらからうるせぇだろ……何の用だ』
不機嫌そうな声。耳に届くと同時に、俺を安心させてくれる。
「あっ、もしもしレイト? なあなあ遊びに行こうぜ! 海で泳ごーぜ!」
俺はだから、零音のためにもふざける。
あいつは俺よりも辛い経験してきてるから。目を見れば解る。光が無くって、絶望してるのがよく解る。俺は零音が居るから戻って来られたけど、多分零音には誰も居ない。
救われない。
俺には……勿論救えないけどさ、せめて手ぐらいは掴んでやりたい。疵の舐め合いかも知れない。でも俺には放っておけないから。
『パス。海なんか行きたくねぇわ……つーか8時までお前マジで掛けて来んな。俺は未だ飯も食ってない』
「えー、俺が行きたいのにー!」
『俺にお前のお守りは出来ん』
行こー行こーと駄々を捏ねてれば、案の定零音は俺との通話をぶち切りにする。
無情な切断音。
「……何時も通り、零音は冷たいなあ」
まるで彼の持つ噂みたいだ、なんて思いながらメモを開き直す。……リンクを押して、彼に友達申請を送る。
返事は未だ無い。当たり前だし仕方ないかな、と思いながら俺は服を着ることにした。
怠いと呻りながらも体を叱咤して浴室に向かう。……綺麗に乾かされていた服を着て、俺は思わず溜息を吐き出した。
「……今日は、零音と居たいなあ」
何時も通りの、ただの願望だ。
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