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零の音 side龍空
取り敢えず俺は荷物を纏めて、チェックアウトして、零音の家に向かうことにした。
何時も通りの表情を繕って、電話を掛ける。
「もしもし零音? 俺はちゃんと8時まで待ったぜ! 褒めてくれ、そしてドアを開けてくれ!」
『は、お前また家の前に来てんのかよ?』
呆れたような零音の溜息。
少しして、会話がぶつ切りにされた。そして目の前の扉の鍵が開けられる。
俺はその瞬間に飛び込んで、零音に思い切り抱き着いた。何時もとはパターンが違うけど、そうしたかったから。……安心したかったからかどうかは、俺自身ちょっとよく解らないけど。
身動ぐ零音。
苦しいのか俺の腕を叩いて、離せと言ってきた。嫌だと言って、俺は腕の力をますます強くする。
「はあ……人目もある。早く入れ」
すると零音は諦めたような声色で、俺の体を引き摺りつつ家の中に入っていった。
……やっぱ、零音は優しいな。
俺は家の中に入ると、漸く安心できた。
零音の匂いに包まれてる。そう思うと自然、体中に張り詰めさせてた緊張感が抜ける。
重い溜息を吐きだして、俺はそのまましゃがみこんだ。零音は驚いたように俺の腕を引いてくれる。
「ごめんな~、なんか安心してさ……」
なんとか会話を続けようとしたけど、零音が変な顔をするので止めといた。
零音はそして、俺の体を引き摺って自分の寝室に向かう。俺を零音が使ってるベッドに寝かせてくれたんだ。
……何時もと違うほんの少しの優しさに、俺の顔は思わず緩む。
「気持ちワリぃ顔すんな」
零音はそう毒突くけどさ、絶対に俺のことを心配してくれてる。
だってすぐにココア入れてくれたんだぜ? しかも俺の好きなアイスミルクココア。長い付き合いだから解ってくれてるんだよなあ。ちょっと嬉しかったりする。
零音は何も聞かないで、溜息を吐いて俺にデコピンしてきた。
「何があったのかはどーでも良いが、お前から俺以外の匂いがする」
うえっ、零音鋭い……。
思わず目を逸らすと訝しげな視線で射貫かれた。勘弁してつかあさい!
俺が何でもない何でもないとぶんぶん首を振ると、更に怪しまれた。でも昨日のことを言うなんてのは……流石の俺でも無理だ!
彼に出会えたのは確かにラッキーだったけどさ、それを抜きにすれば昨日は最悪の日だ。
零音に教えたくない。
俺が顔を伏せると、零音は諦めたのかまあ良い、なんて言って離れてくれた。
あー……零音のこの優しさに、俺って救われてるよなあ。
俺はふと、零音の居なくなった部屋で……誰に言うでも無く、そう呟いた。
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