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第6話

朝目覚めたらなんて、始めの頃は期待して眠りについた。そんな期待虚しく、朝になると煩い家令が起こしにやってくる。 最近はこれが当たり前になっていた。 学院に行けと言われ、時久が通う高等科に渋々通学しているが、華族の集まる学校らしく俺には到底馴染めなかった。時久の友人である有島義朗は、有島銀行の息子でこの時代の人にしては珍しい思考の持ち主だった。 「青木、今日もカフェーに行くのか?」 「それがどうした」 「彼処は財閥の如何わしい輩が集う他言無用の店だろ。 どうやって入った?」 小声で聞いてくる有島に笑って誤魔化した。実は、志賀にどんな方法を使ってもいいから受付の女を黙らせろと命じたのだ。志賀はかなり御立腹だったが。 「大丈夫だって、法に触れるようなことはやってないよ」 「子爵家だってバレどうするんだ」 「どうしようか」 「おまえな……」 「そうだ! 有島おまえも来いよ」 「いや、拙いだろ」 「面白いもん見せてやるからさ」 「おまえは相当…変わり者だ」 * 日吉町にあるカフェーは、女給仕が売りで珈琲や洋食を扱うサロン形式の店だ。それは名ばかりで、上階の財閥が集う他言無用の店がここの主である。 株取引関係者が集うこの店は、有島に噂を聞き探し出したのだ。 そこで聞いた情報と資料で、売りか買いかを見極めている。今のところ全勝。今日もある程度、情報収集が出来た。 後は酒を飲んで音楽を楽しむ。いつもは和装の有島たが、今日は洋装だった。落ち着かないのか先程から酒が進んでいた。 「おまえ、さっき言っていた面白いもんってなんだ?」 「……俺さ実はこの時代の人間じゃないんだ。時久だけど知久なんだ。信じるか信じないかは有島に任せるよ」 俺は構わず椅子から立ち上がった。 「今から証拠見せる」 志賀にも見てろって言ったんだけど。 ピアノを演奏する黒人に声を掛けた。俺は一礼しピアノの前に腰掛け、この時代にはない曲を弾いた。当然、サロン内がざわつき皆がこちらを見ている。徐々にベースやドラムが俺の音に合わせて入る。どこからか手拍子がなり、踊り出す者も現れ大いに盛り上がった。俺は立ち上がり一礼をした。止まない拍手の中、有島の元へ戻った。 「……もしかして青木子爵の嫡男じゃ?」 「やっべ! 逃げるぞ!」 俺と有島は走って階段を降り、カフェーを出た入口で志賀に会った。 「若様、こちらです」 俺は志賀の手を握った。その後ろを有島がついてくる。俺達が馬車に乗り込むと動き出した。 「義朗様まで巻き込んだんですか。貴方って人は」 俺は二人の複雑な表情が可笑しくて堪らず吹き出した。 「本当に時久じゃないのか?」 「有島に任せるって言ったろう?」 「そんな笑うなよ」 「ごめん、だってさ」 「大丈夫なのか?」 「暫くは彼処に行けないかな」 「いや、そうじゃなくて」 「細かい事は気にすんなって、送っていくよ」

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