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幾つもの春が通り過ぎて1

**** 15の春から幾つもの季節が通り過ぎて、俺は22歳になっていた。 心も躰も、少年から青年になった。 もう抵抗できない、か弱い少年ではないのだ。 なのに…帝、あなたには逆らえないままだ。 臣下に下された俺にとっては、帝の命令は絶対だから… あなたはあの春の夜、まだ何も知らなかった幼い俺を無理矢理奪って、あなたのものにしてしまった。 あの日から俺を好きなように抱き続けている。 どうして手放してくれない? 俺はもうあなたの手から逃れたいのに。 もう耐えられない…壊れてしまいそうになる! **** 「洋月の君様、御文が届いております」 読まなくても分かる。 この文が誰から届いたものか。 焚かれた高貴な(こう)の香りが俺を追い詰める。 文に添えられた牡丹が一輪、俺の心臓を貫く。 この文を手にした途端、俺の躰からは今日も見えない血の涙が流れていく。 「今宵も行かねばならぬのか…」 牡丹からの呼び出しに、暗く深いため息を漏らしてしまう。 「洋月の君、そんなに暗いため息を漏らしてどうした?さては女子(おなご)からの女々しい恨み言でも?妹の他に何人女子がいるのだか…流石、光る君といわれるだけあって都一の色男だよな」 振り向くと優しい眼差しがあった。 見られていたのか。 慌てて文を後ろに隠し取り繕う。 「丈の中将が盗み見か?全く呆れるな」 相手は丈の中将(じょうのちゅうじょう)だ。 俺の形だけの妻、桔梗の上の実兄で、いつも弟のように俺を可愛がってくれている。 また宮中では同世代で同じような身分であることから、無二の親友でも通っている存在だ。 「して今宵の姫はどんな方だ?義兄にだけそっと教えろよ。なぁいいだろ?」 「ち…違う!」 的外れな推測に思わず苦笑してしまう。

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