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第55話
優弦の唇を蹂躙しつつ、ジェイクの手が剥き出しの太腿を撫でる。抵抗しようと縛られた両手でジェイクの厚い胸板を叩くと、反対にその両手はあっさりと頭の上で押さえつけられた。
「はっ、はあっ、あっ、やめっ……!」
唇を開放されて空気を確保したところに、ジェイクの舌が顎下から喉仏を伝い鎖骨へと下りてくる。太腿を撫でていた手は、優弦の中心へと向かっていた。
暴れる優弦を押さえつけるジェイクの体からムスクが鼻を突いてくる。これは櫻井と同じラストノート。
櫻井に初めて抱かれた夜、同じ香りでジェイクを思い出したのに、今は櫻井の姿を浮かべ、胸が張り裂けそうになった。
「だめっ、駄目だジェイク! 離してっ。やめてくれっ!」
「……どうしてそんなに嫌がる? 今さらマサキに操を立てるつもりかい?」
愉しそうに含み笑いをしたジェイクの手が下着の上からやんわりと優弦の花芯を握りこんだ。
締めつけられた快感に、ああっ、と顎をあげて呻いた。握られたそこが既に熱を帯びて硬くなっているのがわかる。
「口では嫌だと言いながら、すっかりその気だな。もしかしてマサキでは満足していないのか? ほら、少し握っただけで、もうこんなに蜜が滲み出ている」
布地越しにゆるゆると擦られる。その度にびくびくと花芯から生まれた電流が下半身を駆け巡り、まだ閉じたままの後蕾の奥が疼く。
「あっ、あぁっ、やめて……っ」
ジェイクの舌が優弦の右胸の尖りに届いた。舌先で尖端を転がされ、口に含まれると、性器を握る手が勢いよく上下に動き、そして、
――カリッ。
「ひあっ! あああっ!」
乳首を強く噛まれて優弦は大きく仰け反った。押さえつけられた手首がネクタイで擦れて痛い。でもそれ以上に右胸と花芯に走った衝撃が優弦の脳を掻き回した。
「おや、達 かなかったのか。どうやら大勢の男たちに可愛がられて、これくらいでは足りない体に変えられたらしい」
愉しげに言っているのにジェイクが醸す雰囲気はとても冷たい。
「喜べ。私はこう見えても寛容だ。奴らの代わりに私が面倒をみよう。おまえをイギリスに連れていく。私の屋敷で二人だけで暮らすんだ。そうすれば、おまえに惑わされる男たちもいなくなる。奔放なおまえをこのまま野放しにしておくのは社会的にも宜しくはない。そうだろう?」
(――、なにをこの人は言っているんだ……)
「そ、んなこと……、できるわけ……」
先ほどから治まらない頭痛と体の熱りに喘ぐ優弦を見おろしてジェイクは初めて、傲然たる笑みを優弦に見せた。
「心配するな。これからは私だけを見ていればいい。おまえは私が一生飼ってやる」
ごぼっ――――。
暗い海から濁った水泡が上がってきた。それは驚きに開いた目の前に迫ると、ゆらゆらと揺れながら大きくなり、やがて優弦を包み込んで眩しい光を放つと一気に弾けた。
水泡の中から飛び出したのは、あの夜の出来事。優弦が時間をかけて自意識の奥底へと閉じ込めたはずの……陵辱の記憶。
――へえ、これがあのすかした貴族野郎を骨抜きにした体か。
――いい具合だ。あんなに突いてやったのにまだ締めつけてくるぜ。どれだけ淫乱なんだ、こいつは。
――次は首輪を用意しよう。きっとよく似合うぜ。おまえは犬で、おれたちが主人だ。いい子にしてたらヤツに代わって一生飼ってやるよ。
薄く唇を開け、目を剥いたまま静かになった優弦に抵抗の意志が見えなくなり、ジェイクは押さえていた手を離した。案の定、優弦は縛られた両腕を頭の上に力なく置いたままだ。ジェイクは満足げに唇を引き上げる。
(可哀想だが、今のユヅルに大人しく言うことを聞かせるにはこうするしかない。なに、あとはあの頃のように常に愛を囁き、甘やかせれば完全に自分のものになる。自分を裏切った行為は腹立たしいが、なにも言わずシマノを退社したあたり、彼も旧社長派になにか弱みを握られていたのかもしれない。その弁明はあとからゆっくり聞き出せば良いだろう)
ジェイクは優弦の下着に手をかけた。早くこの体を堪能したい。ロビーにいる赤城からはなんの連絡もないが、まだ櫻井はここを突き止めていないか、赤城が上手く追い返したのだろう。
ジェイクの顔に思わず笑みが溢れる。愛しい人、このときをどれほど夢みたことか。
ジェイクが、優弦の下着を下ろそうとしたときだった。
――ひゅう。ひゅう、ひゅっ、ひゅ。
短く掠れた音が耳に届く。なんの音かと、耳を澄まし探っていくと、
――ヒッ、ヒュ、ヒュッ。
「ユヅル?」
優弦の様子がおかしい。口を大きく開け、目には涙を溜めて肩で息をしている。シャツから露出した胸が細かく上下し、頭の上から縛られた両手を喉元へ持っていこうとしていた。
――ヒッ、ヒッ、ヒッ、ヒッ。
大きく開いた瞳はどこにも焦点が合っていない。
「ユヅル? ユヅル! しっかりしろ!」
ジェイクの大きな声がした。口を開いているのに空気が取り込めない。涙が溢れ、目の前のジェイクの姿が歪んでいる。ヒュッヒュッと喉が鳴り、眩暈と激しい動悸に襲われる。
(息が……、できない……)
意識が朦朧としてくる。自分の名前を叫ぶジェイクの声が遠くのほうに聞こえる。このままでは、死んでしまう……。
(苦しい。だれか……)
ネクタイで縛られた両手を喉元にあて、必死に息を吸い込もうとする。きつく閉じた瞼の裏側に、ぼんやりと櫻井の顔が浮かんだ。
(櫻井さん……、櫻井さんっ、助けてっ!)
「ユヅル、お願いだ、目を開けてくれ!」
優弦の突然の異変にジェイクは慌てて両手の戒めを解こうとした。そのとき、背後から大きな音とともに鋭い声がした。
「優弦から離れろ、ジェイク!」
激しく開いた扉から入ってきたのは櫻井だった。
「優弦っ!?」
(さ……、くらい、さん……)
霞む視線の先に櫻井の顔を認めると、優弦の意識は遠のいていった。
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