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第63話

「君は今夜一晩、ここで彼らのご要望に応えたまえ」  それがなにを意味しているのか、優弦には咄嗟に理解できなかった。だが、座敷の隣の部屋にこれみよがしに設えられた寝具と社長の台詞で、優弦は自分がここに連れてこられた本当の意味を理解した。 「なに、たった一晩、彼らの相手をするだけだ。まさか、ハワードとはできたのに彼らとは無理だとは言わないだろうな」 「先方はパーティーで君を見て興味を持たれたんだ。自慢気に君を連れているハワードが羨ましかったそうだよ」  こんな男娼のようなことなんて、とても出来はしない。解雇も覚悟で優弦は拒否を示そうとした。しかし、次の彼らのひと言が、優弦の正常な思考を奪った。 「ちなみにこの件はハワードも了承済みだ。むしろ彼は君の働きを、大いに期待している、と言っていたよ」 (ジェイクが……、こんなことをおれに望んだ……?)  拒否権など最初からなかった。  ショックで強ばった優弦の体を、猥雑な嗤いを浮かべた男たちは代わる代わる蹂躙した。気を失うことも許されず、一晩中、男たちの相手をさせられ、身も心もズタズタに引き裂かれていく。  後ろから激しく穿たれて優弦の後蕾は傷つき血を流した。無理矢理に射精を促された性器からは最後は泡立った薄い体液さえ吐き出せなくなった。涙を流し、赦しを乞う優弦の顔に、彼らは自らの白濁を容赦なく放った。  永遠に続くかと思われた災禍は朝になってやっと終わり、汗と涙と精液にまみれて虫の息で横たわる優弦の姿を、サーバルの男たちは嘲笑しながら満足気に見下ろしていた。  喉の奥のねばつく精液にげほげほと咳き込み、容赦なく注がれた白濁が内奥から溢れ出て、引き伸ばされた後蕾の傷にぴりぴりと凍みた。身支度を整えた彼らが優弦を残して部屋から出て行くと、唐紙障子の向こうから朗らかな話し声が聞こえてくる。薄れていく意識のなか、性行為という暴力に晒された優弦に誰かが障子の影から話しかけている。その言葉は、優弦の心を壊す最後の一矢となった。 「これで今回の契約は安泰だ。ハワードも喜ぶだろう。彼のためにもせいぜい頑張りたまえ。そして、これからこれが君の仕事になる。彼ら専属の接待要員だ」  それは処刑宣告に等しい台詞だった。  それからサーバルの男たちは夜も昼もなく、優弦を呼び出してはその体を貪った。ある時はひとりの、そしてある時は複数の男たちを受け入れながら、優弦の精神は徐々に蝕まれていく。それでもその頃の優弦の唯一の支えは、いつかはジェイクが戻ってきてくれて、優弦を助けてくれるという淡い願望だった。  社長や常務は最初の夜の会食のあとから、優弦と顔を合わせることを拒否している。サーバルの男たちの呼び出し要請は優弦に直接入ってくることはなく、赤城からいつも伝えられた。しかし、当の赤城は優弦がしていることを知らないようだった。便宜上は営業活動の一環だ。赤城は優弦を連れて、サーバルの幹部たちが指定するホテルのレストランに行き、対して意味のない新商品のプレゼンなどをする。幹部たちは、あとの詳しい説明は優弦にしてもらうと言うと、赤城をいつも先に帰した。そのあとは男たちに肩を抱かれて、部屋へと連れ込まれて地獄の時間が幕を開けるのだ。  そして、ジェイクの帰りを待って半年後。その事件は起こった。  その夜遅く優弦を呼び出したのは、以前ジェイクと行ったパーティーで声をかけてきたサーバル日本支社の支社長の男だった。この男は他のサーバル幹部とは違い、特別な感情でもあるのか優弦を独占したがり、いつもひとりで会っていた。そして、被虐的嗜好のある男でもあった。  それは急な呼び出しで、自宅に戻っていた優弦を赤城はわざわざ迎えに来た。指定されたホテルに向かう間、赤城はしきりにこんな時間に呼び出されたことを不審がっていた。ホテルに着くと、いきなり部屋に上がって来いと指示があり、余計に赤城の疑念を煽ったようだ。そして部屋のドアが開かれた途端、出てきた男は酒臭い息をまき散らしながら赤城に向かって、邪魔だ、帰れ、と激しくわめき散らすと、優弦の腕を掴んで乱暴にドアを閉めた。  男は明らかにイラついていた。口汚いスラングを連発し、優弦をベッドへと突き飛ばす。優弦のシャツを引き千切り、前戯もなく優弦の腰を掴むと男は後ろから一気に固い蕾を貫いた。激痛に絶叫をあげた優弦を殴りつけ、ガツガツと腰を振る。あまりの痛みに逃げようとした優弦の腹や顔を殴る男は、いつもと違って激しく抵抗する優弦にカッときたのか、あろう事か、細い首に手をかけたのだ。

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