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第2話

 それもこれも自分らの音楽をやらせないからだと言わんばかりなのがありありと分かる。  彼らはユニット名を『JADEITE(ジェダイド)』といい、デビュー時からずっと氷川が楽曲を手掛けてきた、いわば秘蔵っ子といわれている存在だ。今までに三曲ほどのシングルをリリースしたが、確かに彼らが言うように、そのどれもがバラード調のしっとりとした表情の強いものだった。加えて次の四枚目のシングルも似たような曲調と知って、ついには我慢の限界に達したわけか、若い二人がこうして直談判に乗り出してきたわけである。  もともと高校でもあまり素行の褒められたタイプではないせいか、普段は隣校の不良連中と小競り合いをしたり粋がってみたりと、お盛んなようだ。そんな態度をそのままに、肩を鳴らしながら凄んでみせる二人の態度にも、氷川は依然黙ったままだ。落ち着き払ったその様からは、まるで『仔犬がえらそうに吠えるんじゃねえ』とでもいわんばかりの、妙な気迫までをもまとっているようで、若い二人にとってはそんなところも気に入らなかった。  それに追い打ちをかけるように、ようやくと口を開いた氷川の第一声は、より一層彼らの神経を逆なでするような物言いだった。 「お前らの歌がヒットしないのはお前らの心構えがなってないからだ」 「はッ――!? 何それ……」 「まるで魂が入ってない。今までに出したのだってどれをとっても中途半端で頭が痛いのはこっちの方だ。ミキシングでかろうじて聴ける程度の仕上がりになってはいるが、あれでヒットもクソもねえってところだろうな」  机の上で手を組み合わせ、その手の上に顎を乗せてじっとこちらを見据えながら、視線を泳がせることもしないままで飄々(ひょうひょう)とそう言い放つ。若い二人をキレさせるには十分過ぎる台詞だった。  どちらかといえば落ち着いた雰囲気の遼平はともかくとして、直情型らしい紫苑が黙っていられるわけもない。彼は怒りのままに、卓上をドンと拳で叩きつけては『ふざけんなッ』とひと言怒号を上げた。  相方の遼平も、そんな紫苑の肩に手を掛けて、形式だけは彼を鎮めんとしながらも、だがやはり同様に腹立たしいのは変わらないといったふうで、二人は揃って目の前の男を睨み付けていた。  氷川はジロリと彼らを見上げるように視線だけをそちらへやると、 「それに……俺が気に入ったのはお前らの”面構えと声だけ”だ。お前らのやってた”音楽”じゃねえ」  怒りを通り越し、驚愕ともとれる酷な台詞を平然と投げつけた。  これには寡黙なタイプの遼平の方も一瞬ギリリと唇を噛みしめた程で、紫苑に至っては握った拳がワナワナと震え出すくらいだった。  あまりの率直な物言いに、しばしは反抗の言葉も思いつかずに立ち尽くす。そんな二人をよそに、氷川は更に輪をかけるようなえげつない物言いをして見せた。 「ああそうだ、もうひとつ。面構えと声の他にお前らをスカウトしようと思った理由は……お前らがゲイで、お互いに乳くり合ってる間柄だからってことだったな?」  冷やかすでもなければ罵倒するでもなく、ひどく真面目な調子でそんなことを言い放たれて、二人の怒りは頂点に達した。 「はっ……!? 何だよそれッ……! ツラと声はともかく……意味分かんねえよッ! 俺らが乳くり合ってりゃ何だってんだよッ!? あんた、ひょっとしてアブねえ趣味でもあんのかよッ!」  自慢のセクシー系のハスキーボイスを潰さんばかりの勢いで紫苑がそう怒鳴った。 「――ふん、アブねえのはお前らの方だろうが? 下校途中に制服のまんまでラブホから出てくるなんざ、イカれてるとしか言いようがないがな?」 ――――ッ! 「……あ……ン時きゃ、たまたまだったんだッ……! いつもってわけじゃ……ねえよ……っ!」 ◇    ◇    ◇

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