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第5話

「変わってないな」 「――え?」 「お前のことだよ。二十年前のやんちゃしてた高坊の頃から全然変わってない。まあ、紫苑と遼平も似たようなもんだ。僕から言わせればお前ら、皆同じ類だよ。本心をはっきり言葉にして伝えることもできないままで、だけど”そんなの言わなくても到底理解してくれてるだろうと思ってた”なんて平気で言うんだ。格好つけてイキがって絡み合って、正直にいえばどうしょーもないガキ同士ってこと」 「は――、相変わらず毒舌だな」 「でもまあ、いいんじゃない? お互いとことんガキになれば。腹の探り合いとか、見栄とか外聞とか立場とか、そんなの関係なく思ったままをぶつけ合う。まだ大人の社会を知らなかったガキの頃の……あの頃のままで、ずっと共に走っていけたなら……こんな理想はないじゃない?」 ――そう、ずっとそうだったように。  ガキだったあの頃と何も変わらずに、微笑み合って、ぶつかり合って、喧嘩して、仲直りして、そしてまた笑い合う。  ずっとずっとこのままずっと、共に過ごせたらいいって、僕らはずっとそう夢見てきたのだから――  ガラス越しに映る互いの表情を見合いながら、二人の間に共通する感慨が胸を逸らせる。  ふと、思いついたように氷川が隣りの帝斗を見やった。 「……そうだあいつら! カバンとか携帯とか金とか、ちゃんと持って出たんだろうな? まさか一文ナシで街中ブラついてるなんて……こたぁねえよな」 「まあ今時の子だ、携帯は肌身離さずってとこだろうが……。他の荷物や着替えとかまではどうかな? あの勢いで飛び出したんなら、わざわざ部屋に寄る余裕があったとも思えないがね?」 「……ッ、っの馬鹿どもが……っ」  彼らのことだ、荷物を取りにわざわざこのビルに戻ってくるなんてことは到底プライドが許さないだろうというのは言わずもがなだ。まだ二月半ばのこの時期に、宛てもなくブラついていやがるのかというような不安な面持ちで、氷川は眼下の景色を気に掛けていた。まるでそのイルミネーションの小さな粒の中から、彼らがこちらを見上げてでもいるんじゃないかといわんばかりの調子で、食い入るように見渡しているのが可笑しくて、帝斗はクスッと笑ってみせた。 「大丈夫だよ。ちゃんと倫周(りんしゅう)に後を追わせたから。今頃は多分、とっくに車で拾ってる頃だろう?」  倫周というのは帝斗の弟で、現在は彼の秘書として事務所を手伝っている男だ。何とも優しく穏やかな感じのするのんびりとした性質で、所属ミュージシャンらの間でも、皆の癒し系などと呼ばれているような存在であった。 「――そうか、倫周にか?」 「ああ、僕の自慢の弟だ。お前と違って気立てのやさしい子だからな? 紫苑と遼平も倫周を相手にイキがりゃしないって。今の彼らにとっては素直になれる唯一の存在だろうし、ちょうどいい相談相手になると思うよ?」  そう言いながら微笑む様子に、氷川は安心したようにドッと肩を落とし、と同時に少々呆れまじりで帝斗を見やった。  まったく、相変わらず機転がきくというか、手はずのいい男だ。まあだからこそ、こうしてずっと共にこられたのだろう。  氷川はお手上げだというように小さな苦笑を漏らすと、またひとつ、引き出しのシガレットケースから今度は少し軽めの煙草を選んで手に取った。

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