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第6話

 一方、帝斗の言いつけで遼平と紫苑の二人を追っていた倫周は、偶然を装って無事に彼らと落ち合えていた。  一応はメジャーデビューを果たしたミュージシャンのはしくれということもあって、こんな街中で堂々と顔をさらすことに躊躇(ちゅうちょ)していたらしい二人の行動を読むことなど、割合容易だ。案の定、行くあてに困ってコソコソとしている彼らにバッタリ鉢合わせたふりをしてみせれば、存外素直に言うことを聞いて、誘われるままに車へと乗り込んだのだった。そしてこちらから訊くまでもなく、少々拗ねたような口ぶりで、氷川と決裂してきたことまでをすぐに暴露する彼らをバックミラー越しに見つめながら、倫周はクスッと笑いを漏らしたりしていた。  自分より身長も高く、イキがることも一丁前の、なりだけは立派なくせにしてこんなところはやはりあどけない。そんな彼らが何だか可愛らしく思えて仕方なかった。  だがまあ、そんなことはおくびにも出さずに、ひとまずは彼らの意向を尊重するふうにしながら、倫周は高速道路を自宅のある横浜方面へと走らせた。  もうすっかりと暮れきった宵闇の中に、大黒ふ頭が浮かび上がる。ベイブリッジを超えれば、その向こうには港の灯りがキラキラと眩しく輝いている。 「ねえ、あんた。いったい俺らを何処連れてく気だよ……」  後部座席から少々バツの悪そうな声で、紫苑がボソリとそう訊いた。  帝斗の見込んだ通りというべきか、この倫周に対しては遼平も紫苑もさして反抗する理由が見つからないのか、彼の前では割合素直だ。  まあ氷川と違って、直接歌の仕事に関係のない倫周には歯向かう必要もないといえばそうだが、それ以前に、やはりこの倫周という男の持つ、何とも穏やかでおっとりとした性質に戦闘意欲を削がれるというわけなのか、とにかくは社長帝斗の思惑通りといったところだった。 「あと十分くらいで着くよ。僕の家、この先の坂を登ったところなんだ」 「は――? もしかアンタの家に向かってんの?」 「そうだよ。正確には僕と帝斗の家って言った方がいいかな? あ、勿論、両親も一緒ね」  その説明に紫苑は『ゲッ……』というように、うんざり気味で眉をしかめてみせた。そんな表情をバックミラー越しに眺めながら、倫周はまたもやプッと噴き出しそうになるのをこらえつつ、 「けど安心して。今、両親ともにアメリカへ行ってて不在なんだ。それに今夜は帝斗も接待があって遅くなるから、事務所に泊まることになってる。家には執事と使用人の人たちだけだから、気を遣わずにくつろいでおくれよね」  そう言ってニッコリと微笑んでみせた。 「執事に使用人だぁー? アンタらの家ってやっぱ金持ちなわけ?」  どうにも現実感のないような話に、二人はポカンと口を開けたまま互いを見つめ合う。邸に着けば、そんな表情が更に輪を掛けたように唖然となった。 「な……ッ、すげえでけぇ家……」 「何、この大邸宅……。あんたら、マジでこんなトコに住んでんのかよ……」  ここへ来しなの道すがら、洋館のような建物が立ち並ぶ一風変わった街区を抜けながら、坂道を登ってきた。その一等小高い丘の上に粟津邸は佇んでいて、それは今までに見てきたどの家々よりも広大な敷地に、それこそファンタジー映画にでも出てきそうな造りの洋館がドカンとそびえ立っている。その敷地を囲むようにアイアン造りの高い塀がぐるりと囲み、これではまるで異境の地だ。遼平も紫苑も、しばしは現実離れしたようなその館を見上げながら、ひと言の会話も交わせずに、呆然とその場に立ちすくんでしまったのだった。 ◇    ◇    ◇

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