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第9話
「何これ、二十年前ってさ……じゃ、やっぱ別人? うっそ! ドッペルゲンガー……?」
遼平の手元から写真を引っこ抜く勢いで奪い取り、目を皿のようにして凝視する。ここに写った人物が自分たちでないとするならば、これ以上気味の悪いことはなかった。
どちらか一人だけが何となく似ているというくらいなら笑いごとで済まされるだろうが、二人揃ってこうもそっくりでは冗談などでは割り切れるものじゃない。しかも本人が見ても間違えるくらいなのだから尚更だ。他人のそら似どころか、親子でもここまで似るなんて有り得ないと思う程に瓜二つだったからだ。
「お、おい……他にも何か挟まってねえのかよ? なんかこのままじゃ……気色悪りィったらねえよ」
「ん、ああ、そだな。写真、写真ね。もう一枚くらい出てくっかな?」
手にした手帳も心なしか汗ばんで、思うように扱えない。
ちょうどその時だ。部屋の扉のノックされる音がして、少しすると食事の用意された銀色のワゴンを引いた使用人らしき男が、倫周に連れられてやってきた。
「やあ、待たせたね? お腹すいただろう」
にっこりとしたその微笑みでようやくと現実に引き戻された感じがして、遼平も紫苑もホッと胸を撫で下ろすような心持ちになった。
とにもかくにも食事どころではない。確かに腹は減っているが、今はもっと大事なことがあるんだ――
食事に目もくれずといったまま、切羽詰まったような表情で二人が差し出してきたものを見て、倫周はハッとその大きな瞳を見開いた。
「これ……何で君たちがこんなものを持ってるんだ……?」
酷く驚いたように、その顔色を少し蒼白く変えながらそう訊いた倫周の態度に胸が逸り出す。
「やっぱ知ってんだ? そこに写ってる奴らのこと――」
「それ、誰ッスか――? 俺らとよく似てっけど、別人なんだろ?」
交互交互に問い詰める勢いで二人がそう訊いてくるのに、倫周はふいと瞳を細めると、何ともいえないような表情で少しだけ笑みを浮かべてみせた。まるで何かを懐かしむように、そしてひどく切なげにそれを見つめては静かな溜息を漏らす。やはり何かいわくありげなのは確かなようだ。
しばらくの後、今度は少々明るめの声で倫周は言った。
「懐かしいなこれ。ちょっと待っておいで。その時に撮った写真が他にもあったはずだから……君らにいいものを見せてあげよう」
そう言って、一旦部屋を出て行った。
◇ ◇ ◇
それから少しして戻ってきた倫周が抱えていたものは数冊のアルバムのようなもの、『ご覧』といって差し出されたそれをめくった瞬間、遼平も紫苑も驚いたように息をのんだ。
そこには先程の写真の続きともいうべき、同じ場所で同じように撮られたショットが何枚も出てきたのだ。しかも氷川の持っていた一枚とは違って、かなりズームして撮ったようなアップショットまでがゴロゴロとある。驚愕だったのは、そのどれひとつをとってみても、そこに写っている人物がやはり自分たちに瓜二つだと思えることだった。
アルバムをめくる内に、社長の帝斗や倫周の若い頃だと思われるようなものを発見した。
「これ、ひょっとして倫周さん?」
「マジ!? すっげー、若えー」
額と額をくっ付けるようにして二人はしばし写真に見入っていたが、その内の一枚に、遼平がふとページをめくる指をとめた。
「ね、これってもしか……氷川さんじゃないスか?」
淡いグレーのブレザーにからし色のタイ、見覚えのあるその制服姿は自分たちの通う四天学園 の隣校である桃稜学園 のものに違いない。
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