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第11話

「白夜はそう思ったかも知れないね。路上ライブをしていた君らと初めて出くわした時に……心臓がとまるくらい驚いたと言っていたからね。本当に生まれ変わりなのかと思ったのかも」  ひどく深刻かつ切なげにそんなことを言われて、紫苑は少々苦笑気味で視線を泳がせた。 「あー、えっと倫周さんのジョークは……また後で聞くからさ。それよかこの写真の二人のことを――」 「ジョーク?」 「んだって、さっきから聞いてりゃ、マフィアだの生まれ変わりだのって現実離れしたジョーク言われても正直ウけねえし。どーせならもっとマシな冗談を……」 「冗談なんか言ってないよ」 「――は?」 ――僕は何一つ冗談なんか言ってないし、嘘もついていないよ。 「ついでに言うなら僕は粟津家の本当の息子じゃないんだ」  真剣な面持ちでそう言われて、紫苑はますます苦虫を潰したように眉を吊り上げた。  次から次へと謎めいたような切り返しばかり、どこまでが真実でどこまでが冗談なのか、まるで見当のつかないことだらけだ。 「えっとさ、もしか俺らを慰めてくれようとしてたりする……?」  先刻からの氷川との一件で落ち込んでいるだろうから、突飛なことを言って元気を出させてやろうとでもいう訳だろうか。だとすれば、その気遣いは有り難いが、それにしても笑えないネタばかりだ。 「倫周さんの気持ちは有り難てえし……俺らを拾ってくれて、ここへ連れて来てくれたことにも感謝してますって!」 ――が、ズレまくったジョークを連発されても正直なところ疲れるだけだ。その気持ちだけはもらっておくから、ヘタクソな冗談を考える暇があったら、こちらからの質問に答えて欲しい――口にこそしなかったが、紫苑としては内心そんな気持ちだったのだろう。 「んと、だからさ……俺らが知りたいのはもっと現実的なことで」 「紫苑君、僕の言ってること……嘘でも冗談でもないんだよ。全部本当のことなんだ。そりゃ、生まれ変わりっていうのは……確かに現実味がないかも知れないけど、それは僕らの希望であって……」 「……は?」  もう何が何だか頭の中がぐちゃぐちゃだ。それでなくてもついさっきは氷川と一悶着してきたばかりだというのに、唐突なことばかり突き付けられて、ますます苛立ちはつのるばかりだ。いつまで経っても一等訊きたいことの答えを教えてもらえないのでは、さすがにモヤモヤが募る。そんな感情を一気に吐き出すかのように、紫苑は少々声を荒げてみせた。 「なら訊くけど……! もし俺らがこの写真の奴らの”生まれ変わり”だってんならさ、こいつらもうとっくに死んでるってことになるんじゃね? 氷川のオッサンがマフィアだとか、あんたがここン家のホントの息子じゃねえとか、いきなり何なんだよ……! そーゆーのを笑えねえジョークだって言ってんの」  年上の倫周に対してこんな言い方をするのは失礼だと承知しつつも、若さ故か抑えがきかない。少々苛立ちながらそう言って、まるで放り投げるようにテーブルの上へと持っていた写真を滑らせた。  俺たちが訊きたいのはそんな妄想なんかじゃない。いい加減、その天然ボケは勘弁してくれといった調子で、紫苑はあからさまにふてくされた顔を隠せなくなっていた。そんな様子を横目にしていた遼平が、気遣うように話に割って入った。 「すいません倫周さん。コイツって思ったまんまが顔に出ちまうんで……気を悪くしないでください。それよりこの人たち、俺らにあんまりそっくりなんで、ちょっと興味湧いちゃって……。よかったらどういう人たちなのか教えてもらってもいいですか?」  遼平の紳士的な物言いにも、紫苑の方は少々気に障るといった顔つきをしていたが、その直後になされた倫周の話の内容を聞く内に、それらが次第に驚きの表情へと変化していった。 「その写真を撮ったのは彼らの高校の卒業式の日だった。もう二十年になるな。白夜と帝斗も同じ日に卒業式だったから、その後に皆で集まって打ち上げをしたんだ」 ――それが彼らと一緒に撮った最期の写真だ。

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