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第12話

 穏やかな口調ではあったが、切なそうに細めた瞳が哀しげに揺れているのを目にしただけで、すべてが理解できるような気がしていた。  紫苑はもとより、遼平も、さすがにこれには返答のひと言も返せないまま、ただただ驚いたような表情で立ち尽くすしかできないでいる。倫周はひとたびふうーっと大きく深呼吸を入れると、アルバムの中にあった一枚の写真を取り上げて、やはり穏やかな声音で先を続けた。 「これはセルフタイマーで撮ったやつだよ」  そう言って全員が一緒に写っているものを二人の前へと差し出した。 「左端から僕と帝斗、それに白夜。その隣に写ってる学ラン姿の二人は『清水剛(しみず ごう)』君と『橘京(たちばな きょう)』君といってね、彼らは四天学園だから君らの先輩ってことになるね。そして僕らの前に座ってる君らにそっくりなこの二人が『かねさき りょうじ』と『いちのみや しづき』っていうんだ。彼らも四天出身だよ」  あまりにも穏やかに、だがそれ以上に当時を懐かしむように切なげに瞳を細めながらそう説明する倫周の様子に、酷く胸の逸るような心持ちにさせられてならなかった。何ともいいようのないその”()”がいたたまれなくて、 「かねさきりょうじと……いちのみやしづき? それってどんな字?」  遼平が思わずそう訊いた。 『鐘崎遼二、一之宮紫月』  倫周は胸ポケットからペンを取り出して、写真の裏にそう書いてみせた。それを見るなり遼平らはもっと瞳を丸くした。そっくりとはいかないまでも似通ったような文字の羅列、それぞれに一文字づつ同じ漢字があることに気がついた。  遼二に遼平、紫月に紫苑――  これでは確かに生まれ変わりだと言われても仕方がない程に似ている。 「……ッ! ちょっ……ッ!? これって名前まで似てんじゃん……」  あまりの驚きに、その先の言葉が詰まってしまう。二人共に無言のまま互いを見つめ合い、しばしの間、沈黙が漂う。倫周は手にした集合写真をテーブルの上へと置くと、静かに先を続けた。 「僕らはね、通っていた学園はそれぞれ違ったけれど、とても仲が良かったんだよ。さっき言った『僕が粟津の実子じゃない』っていうのも本当なんだ。もともとはそれがきっかけで皆と知り合ったようなものなんだよ」  そう言って更に瞳を細めてみせた。 「僕は幼い頃に両親を失くしていてね、伯父夫婦の家に引き取られて育ったんだ。だけどその伯父からちょっとした家庭内暴力のようなものを受けていて……それがきっかけで家を飛び出した僕を助けてくれたのが遼二たちだったんだ。怪我をしていた僕を偶然見つけてくれてね、随分と世話になったものだよ。それからいろいろあって、もう伯父の家には帰りたくないとダダをこねる僕のことをすごく心配してくれて、真剣に相談に乗ってくれたりしたんだ。結局は僕の学園の先輩だった帝斗の御父上が僕を養子に迎えてくれることになったんだけど……。その帝斗と白夜の両親同士が懇意にしていたものだから、自然と皆で会ったりする機会が増えていったんだよ」  まるで独白のように自らの身の上を語り出した倫周に、何の相槌も返せないままで二人はしばし話に聞き入り、押し黙ってしまった。そんな様子を気遣うように倫周は少し瞳をゆるめながら、 「そういえば四天学園と桃稜学園はちょっとした因縁関係なんだってね? 今でもそうなの?」  今までのしめやかな雰囲気を振り払うような悪戯めいた笑顔を浮かべてそんなことを訊く。そして更に明るい感じを装って微笑むと、 「なんでも白夜は桃稜学園で番格といわれていたそうだよ? 『桃稜(とうりょう)白虎(びゃっこ)』なんて異名をとった程で、一目置かれてたみたい。それに遼二と紫月の方は四天の番格だったんだって。だからよくいがみ合ってて、喧嘩とかもしてたことがあったみたい」  まるで『そんなところまで君らと似てるよね』とでもいうように、クスッと声に出して笑ってみせた。

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