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第16話
「あ、えーと、だからさ……よかったら、そン時はライブ観に来て?」
少々照れたように頭を掻いてみせる彼を、誰もがあたたかい思いで見つめていた。
こんなふうに将来の話が出始めると、本当に卒業したのだと実感させられる。と同時に、当たり前のように傍にいた日々が酷く遠くにいってしまうようで、何とも切ない思いがそれぞれの胸をよぎった。特に四天学園で一緒に過ごした遼二、紫月、剛、京の四人は一層その思いが強かっただろうか。何よりの仲間だった剛の話につられるようにして、京も似たような夢を口にした。
「俺も剛と一緒でミュージシャンを目指すよ。ずっとやってきたベースをこれからも続けてみようと思ってる。あ、けど俺は近所の修理工場に一応就職決まってっから……剛ほど本格的ってわけにゃいかねえと思うけど」
そうだった。剛と京はよく学園祭などでもバンドを組んで演奏していたのを思い出す。
大きな夢を追って歩き出そうとしている彼らを応援する気持ちは無論のこと、だが反面、やはりそれぞれに離れてしまう寂しさが胸を締め付けるようだった。
少々湿っぽいそんな雰囲気を取っ払うかのように、次に口を開いたのは紫月だった。
紫月は父親が営んでいる道場で見習いをしながら、将来的にはそれを継げるよう精進するつもりだと、そんな報告をした。そもそも紫月が四天学園で番長扱いされてきたのは、道場育ち故、幼い頃から身に付けた合気道のお陰で、滅法喧嘩が強いというのが大きな理由だった。まあ実際、向こうっ気の強いのも相まって、番格に据えるにはもってこいの実力が備わっていたのも確かではあった。
紫月は、『俺はこれまで通りずっと家にいるから、お前らいつでも寄ってくれよな』などと言っては笑った。
一方、そんな紫月とは小学校の頃からの馴染みで、永年ツルんできた親友の遼二も、自らの父親が勤める近所の町工場に就職が決まっているらしかった。不景気だ何だと騒がれている昨今、「親父の口利きでみっともねえけど」などと照れ笑いをしながら、でも雇ってもらえただけで有難いと思ってがんばるよと言った。
すると今度は帝斗が、次は僕の番だというように自らの進路を語ってみせた。
「僕もいずれは父の後を継ぐことになるわけだから、とりあえずは白帝の大学部へ進むことにしたよ。倫周はまだあと二年あるから高等部に残るけど、彼も将来は僕の秘書として務めてもらう心づもりだから、僕ら兄弟は学業の傍ら、父の下で修業さ」
倫周の頭をポンポンと撫でながらそう言った帝斗に、皆は「さすが大財閥!」などと言っては盛り上がった。
こうなると残りは氷川一人だけだ。遼二や紫月らは一様に『お前はどうするんだ?』といったように彼を見やった。
案外寡黙なタイプのイメージが強い氷川は、剛や京のように軽いノリを持ち合わせているわけでもなければ、自ら進んで話の輪に入ろうというふうでもない。かといって、皆の話に興味が無いとか退屈だといったふうでもない。何とも掴みどころのない男はフイと薄い笑みと共に意外なことを口走ってみせた。
「俺も似たようなもんだ。親父を手伝うってわけじゃないが……香港に帰るよ」
その台詞に、剛と京がすっとんきょうな声を上げた。
「はあッ!? 香港!?」
「俺はもともとあっちなんだ。親父が中国人なんでね」
「マジッ!? ……ってことはアンタも中国人ってわけ……?」
何とも不思議そうにしながら、二人が左右から氷川の顔を覗き込むような調子で取り囲む。おまけに、「けど名前は日本人じゃん」などと言い合っているのに、氷川はまたもや苦笑いを誘われてしまった。
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