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第34話

 がははは、と豪快に男たちは笑い、そこまで聞いて剛と京にもようやくと事の全容が掴めたといったところだった。どうやら『りょうじ』というのは彼らの仲間で、いわゆる『遼二』のことを言っているのではなさそうだ。仕込んでから店に出せば――というくだりからしても、身売り系の商売と見て当たりだろう。紫月はそんなところで売り飛ばされようとしていたわけか。そして当然の如く反抗した結果、店の外に引きずり出されて殴られて、今現在こんなことになっているのだ。  だが如何に経緯が掴めたところで、共に羽交い締めにされているこんな状態ではどうすることもできない。反撃どころか、目の前でノビている紫月を担いでこの場から逃げ切ろうなどというのは曲芸に等しい。  剛も京も煮え湯を飲まされる寸前のような心持ちで、八方塞がりに絶望を感じていた、そんな時だ。後方から見知った悲鳴と共に、もう一人の男が浮かれ口調で近付いてくる気配に、驚いてそちらを見やった。 「おいおい、見ろよ! こいつらもおトモダチらしいぜ!」  嫌な予感に瞳を見開けば、そこには襟首を掴まれた帝斗と倫周が毛むくじゃらの腕に毒々しい腕時計をしつらえた男に引きずられて来るのが目に入って、剛は『何てこった!』といったように唇を噛み締めた。  相反して男たちはますます盛り上がり、彼らの興味の視線が、今度は帝斗と倫周に注がれる。 「へえ、こいつぁ上物じゃねえの!」 「ふぅん、ホントだ。可愛いツラしてやがる。特にこっちの子、オンナ顔負けの絶品じゃねえか! これだったら十分、このクズ野郎の代わりに店に出せる代物だぜ」 「そいつぁー、いいや!」  男たちは高笑いを繰り返しながら、帝斗の方を剛と京の上へ将棋倒しにするように放り投げると、「ヒィッ」と悲鳴を上げる倫周を紫月の前まで引きずり、突き出して見せた。 「どうする紫月ちゃんよー? てめえの代わりにこの可愛い子ちゃんに店に出てもらうか? それともナンだ。見たとこ、この子もド素人みてえだからー、教習がてらここでイイことしてやろっか?」 「そうだなー。いきなり店に出したところで、てめえみたく騒ぎ起こされちゃ堪んねえからな? 先ずは俺らでイロイロ仕込んでやらなくっちゃ、ってな?」  男たちは二人掛かりで倫周を両脇から拘束しながら、その顎先を掴んで紫月の目の前へと押し倒した。 「やだッ……! やめてよっ! 放してってば!」  抵抗して涙まじりになりながら暴れる倫周の反応に、少しづつ冗談が本気になってゆく。興奮した男たちの一人が、倫周のシャツに手を掛け、引き裂いた。 「嫌ーーーッ! い……ッ、やぁーーー!」  狂気のような悲鳴と共に泣き叫ぶ様子に、堪らずに帝斗がその名を叫んだ。 「倫ーーーッ! やめろッ! 倫を放せっーーー!」 「うるせーッ、てめえらはおとなしくしてやがれッ!」  もう一人の仲間にガツンと背中を殴打されて、帝斗はその場に崩れ落ちてしまった。剛も京も同様で、男たちに更なる袋叩きに遭い、三人は重なるように砂利の上に放り出されてしまった。 「……ッそ、畜生……ッ、大丈夫か……帝……斗……っ」  幸か不幸か、それぞれに意識は若干残されているが故に、目の前で霞んで歪む光景に、より一層の苦渋を突き付けられるようだった。  すぐ手の届きそうな位置で、男たちに下敷きにされて叫ぶ倫周の姿がおぼろげに映る。その少し後方では、視線だけでそれを追うのが精一杯のような紫月の顔が、やはり歪んで揺れている。  どうにかしたくても術はない――悲惨な現状に、誰もが苦渋を噛み締めるだけしかできずにいた。

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