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第52話

「遼二と俺もあんなんだったなぁ……」  在学中はよくこうして放課後にこの近辺をブラついたものだ。いつも隣には遼二がいて、そしてそんな自分たちの脇を固めるようにワイワイとはしゃぎながら、剛と京がいた。  商店街のアーケードを我物顔で闊歩したのが本当に懐かしい。そんな思いのままに携帯を取り出し、いつものように遼二へと報告のメールを入れた。 * 今、駅前のコーヒーショップ。四天の一年っぽい野郎の二人連れがいるんだけどさ、なんか妙に可愛いくってよ。俺らもあんなんだったなーって、ちょっと懐かしくなっちまった。 これから剛のライブ。ヤツが欲しがってた本もゲットしたし、楽しんでくる。また帰ったらメールすっから。 あ、そだ! 今日も氷川と一緒に行くけどさ。迎えに来てくれるっつーから。一応報告しとく(笑) *  もう二月の終わりの夕暮れが春を告げている。窓の外のだいぶ陽の長くなった空を見上げながら、そろそろ行くかと席を立った。  時間にすればまだ若干早いものの、駅前で車を待たせるのは悪い気がして、ブラブラと待ち合わせ場所へと向かった。  頬を撫でる風はまだ冷たいが、ふと通りすがりの庭先に白梅の蕾がほころんでいるのが目に付いて、ほんわりとした心持ちになる。ガラじゃないが、こんなふうに情緒を感じながら歩くのもたまにはいいだろう。  普段は気にも掛けなかった花屋の店先には、桃の節句用のピンクの花を付けた枝々が大きなバケツにわんさと並べられていて、その隣の洋菓子屋にも同じような雛祭りの菱餅型のケーキのポスターが大きく貼り出されている。甘党の自分としては思わず食指が動きそうだ。本当に普段なら素通りで当たり前の景色が、今日はやたらと目に付くのは何故だろう。  だがやはりこんなのも悪くはない。そんな思いのままに、ゆっくりあちこちへと立ち止まるようにして紫月は歩いた。  ふと視線をやった先の交差点に、先程いたコーヒーショップで出会った四天の一年生らしき二人連れの制服姿が目に付いて、思わず足をとめた。  互いの肘で相手を突き合ったりしながら何やら楽しげな様子に、こちらも思わず笑みを誘われる。 「あいつら……」  彼らも同じ頃に店を出てきたのだろうか、再度見掛ける偶然に紫月は瞳を細めた。  会話の内容までは聞き取れないながらも、二人がとても楽しそうに話しているのはすぐに分かった。やはり以前の自分たちと印象が重なるのか、微笑ましい気持ちと同時に胸の奥底がキュッと掴まれるような切ない哀愁が過ぎるのは、仕方のないことだろう。願わくば彼らにはずっとこのまま共に笑い合っていて欲しいものだと、心からそう思ってやまなかった。  そんな感傷を振り払うように視線を外して、待ち合わせの場所へ急ごうと思ったその時だ。  もう一目だけ――と、ついそんな気持ちで何気なく振り返った彼らの姿の後方に、けたたましいブレーキ音が響いた。譲らない車と無理な追い越しでその脇をすり抜けようとしたバイクか何かが接触事故を起こし、その弾みで彼らが立つ交差点へと突っ込んでくる光景がスローモーションのようにして飛び込んできたのだ。 「危ねえ――ッ!」  そう叫んだ時には、紫月は既に彼らを庇うようにして車道へと飛び出していた。 ◇    ◇    ◇

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