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第63話

 組敷いたまま左の腕を取り上げ、もう片方の掌を合わせ、指と指とを絡めては唇を貪り合う。白い枕の上に投げ出されたやわらかい髪を少し乱暴に掻き乱しては、既にガチガチに硬さを増した雄同士を擦り付け合って腰元をよじる。耳たぶを甘噛みし、そのまま首筋をきつく吸い上げ、鎖骨をくすぐるように舌先で辿りながらローブを押し広げ――  胸飾りの突起を指先で転がせば、堪え切れない嬌声と同時に細い腰が大袈裟にくねって、開けた裾の中で淫らに滴る蜜液が互いの太股あたりを濡らした。 「……っんあッ、遼っ……平っ……ッ」  いつもよりも大胆なのは、やはり神経が高ぶっているからだろうか。それとも月明り以外に自分たちを照らすものがないからだろうか。わざと照明を落とした真っ暗闇の中で、互いの感覚だけを頼りに激しく求め合う。突起を舌先で突かれ舐め回されて、紫苑は淫らな吐息を漏らし続けた。 「……平っ、……しつこ……そこばっか……っ」 「――ココだけじゃ足んねえか?」 「え……? あ、ん……なこと……言っ!」  ツツーと、親指で脇腹を撫でられて、ゾクゾクと背筋を煽られると同時に、硬い竿の根元から蜜液の滴る先端までをいきなり口淫で舐め上げられて、紫苑は大袈裟なくらいの嬌声を上げた。 「いっ……ん、ああっ……!」  鈴口のくびれを尖らせた舌で突かれ、時には思い切り口中に含まれ激しく吸われて、竿の付け根から袋までをも揉みしだくように掌で弄ばれる。太股を掴まれ、片脚を持ち上げられ、躊躇も容赦もなく当たり前のように後ろの蕾を弄られる。そこに舌先を突っ込まれる勢いで舐められて、紫苑は思わず身構えるように下肢を固くした。 「よせっ、バカ……てめ、いきなり何……を……」  普段はこんなふうに愛撫されることはない。大概はぎこちなく遠慮がちに、だがそうこうする内に互いの若さが欲するままに段々と乱れていくのが当たり前なのだ。こんな――まるで慣れた大人の男に翻弄されるような愛され方は知らない。急激に湧き上がった不安をそのままに、紫苑は愛撫を遮るように遼平の腕を掴んでいた。 「――どうした?」 「や……どうしたって……そりゃ俺ン台詞。今日のお前、なんかヘン……」 「どうヘンだよ? めちゃめちゃにしろっつったの、てめえだろ?」 「や、そ……だけど」  やっとのことでやめてくれた前戯と引き換えに、妙に落ち着き払った問答を突き付けられて、紫苑はますます戸惑わされてしまった。  闇に慣れた視界の中、見下ろしてくる瞳はいつもの遼平のそれとは違う。  照れたようにして行き処のない視線に見つめられるのが心地よかった。それが当たり前だと思っていた。少し照れ屋の彼に見つめられながら、それとは裏腹の激しいセックスは抑えようのない欲情の証でもあって、そんなギャップが遼平そのものに思えて安心できたというのに――  今日の彼はまるで違う。ともすれば別人のようにも感じられるのだ。 「……おい、遼平……?」  真上からこちらを見降ろしながら、今度はゆるゆると髪の隙間を縫うように指で梳き始めた遼平を、紫苑は恐る恐る窺うような面持ちで不安げな視線を泳がせた。 「なあ、おい……てめ、聞いてる? おい、遼平」 「遼平じゃない――」 「――え?」 「遼平じゃない。遼二だ」 ――?  闇色の瞳が射るように見つめてくる。  形のいいたっぷりとした厚みの唇も、鼻梁の高い鼻筋も、額に掛かる黒髪も全部見慣れた男のものだ。  そのはずなのに、まるで雰囲気が違うように感じられるのは錯覚ではない。

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