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第77話

 そんな男のいきなりの登場に、誰もが気まずいといったふうに視線をそらし合う。他校の連中を取り囲んで絡んでいたなどという事実を知られれば厄介だといったように言葉少なでいる。  春日野という男は、同じように黙ったままの遼平と紫苑の二人に一瞥くれると、 「四天の織田に如月――か」  短くそれだけ言って、自らの仲間内をじろりと見渡しながら小さな舌打ちをしてみせた。 「たった二人をこんな大勢で取り囲んで、目立つ通り沿いなんかでイキがってんじゃねえよ。みっともねえったらありゃしねえ」  案の定、瞬時に現状を見破ったこの男から蔑みに近い小言を食らって、一同は更にうつむき加減でショボくれてしまった。そして言い訳するかのようにブツブツと消極的な呟きがあちこちで上がり始める。 「けど、別になぁ、絡んでたってわけじゃねえし……」 「そうだよ。第一、アレじゃん。俺らが四天の織田と如月相手に勝てるわけねえって!」 「そりゃそうだよな。こいつら一応、四天の頭って言われてんじゃん? わざわざこっちから因縁付けるなんてバカはしねえよなあ」 「つーか! 因縁付けるっつーよりは、単に頼み事してたってのが正解だしよ」 「そうそう、隣校のよしみってやつでさ。要は交流深めてたって方が正しいっての?」  紫苑らに金をせびっていた男をチラ見しては、そんな言い訳を繰り返す。別段、悪巧みをしていたわけではないということを口々に強調してみせるわけだ。  つまりそれ程にこの春日野という男の前では頭が上がらないというところなのだろうか。春日野自身は自ら進んで他人に絡んだり、くだらない冷やかしなどをするようなタイプには到底見えないし、どちらかといえばそういった行為を軽蔑している感が強そうだ。一匹狼ふうの彼は、強いが故に曲がったことや卑怯なことが嫌いなのだろう。遼平と紫苑にしても、聞かずとも彼の雰囲気を見れば、何となくそんな人間性が窺い知れる気がしていたのは確かだ。  そんな彼から「済まなかったな」と丁寧に頭を下げられれば、実際のところ悪い気はしなかった。これ以上面倒事に関わりたくもなかったし、逆に助かったのは事実だ。二人は難なくその場を後にしようとした。  と、その時だ。 「おい、てめえら!」  先刻の春日野の時とはまるで違うドスのきいたような声に呼び止められて、遼平も紫苑も、そして春日野を含めた桃稜の連中が全員でそちらを振り返った。  声の主を確認したと同時に蒼白となったのは、紫苑らに金を都合してくれとほざいていた男だ。どうやら相手に見覚えがあるらしい。 「よう、捜したぜ。てめえ、桃稜の生徒(ガキ)だったんだな? ナメたマネしやがって!」  体格はそこそこ長身といえるだろうか、がっしりとした肩幅と腕に隆々とついた筋肉のせいで、実際よりも大男に見える。ふてぶてしい歩き方は誰にも文句は言わせねえぞとばかりに威圧感を伴ってもいる。後方に手下のような若い男を三人ほど従えながら凄んできたのは、一見にして堅気ではないと分かる風貌のいかつい男だった。  歳の頃は三十代半ばくらいだろう、或いは四十そこそこか。前髪をツンと立たせた感じのショートカットに、手入れの行き届いていないような髭面が、より一層凄みを際立たせている。  春日野を除いた全員が、この男が近付いて来た理由が分かったのか、少なからず誰しもがうつむき加減で硬直気味になった。当事者の男などは、もう唇の色も褪せ、血の気が引いたような顔色でガタガタと震え始めている。  ヤクザふうの男たちは、遼平と紫苑を合わせて十人以上いた桃稜の連中らをかき分けるように、わざと肩をぶつけながら目当ての男の前へと歩み寄ると、通行人ら周囲の視線に遠慮するでもなく怒号を飛ばしながら、いきなり胸倉を掴み上げた。  夕刻とはいえ、まだ陽のある時分の、しかも結構な人通りのある繁華街でだ。  当然のことながらそれを怪訝に思った春日野が、仲間を庇うようにして素早く男の前へと歩み出た。

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