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第85話

「兄貴、どうやらサツじゃねえみてえですぜ。なよっちい野郎が一人で騒いでるみてえなんで……」 「ああ? サツじゃねえならこんな所に何の用だってんだ!」 「もしかしたらこいつらのセンコーとかじゃないんスか? 誰かが学園に通報しやがったとか」  ここへ来る道すがらに節介な通行人にでも見つかったというわけか。だがそれならば学園などより先ずは警察へ通報されるはずだろう。奇怪な成り行きに、もしかしてこの場にいる学生の誰かが密かにメールででも助けを求めたのだろうかという疑惑が浮かび上がる。ヤクザの男たちはしゃらくせえとばかりに桃稜の連中らにガンをくれると、舌打ちまじりでシャッターを開けて、外にいる人物を乱暴に引き入れた。 「うわっ! ちょっと、乱暴はよしてくれ……!」 「そりゃこっちの台詞だな。けたたましく騒ぎやがって! てめえ一人か!? 何モンだ、てめえは!」  どうやら扉を叩いていたのはその男一人のようだ。雨風が激しい通り沿いには、彼以外に人っ子一人見当たらない。薄明かりの中で見てもヤワそうなのが窺えるその男を見るなりホッとしたのか、ヤクザたちは再び頑丈に錠を掛けると、予想外の招かれざる客を引き摺りながら倉庫中央の皆の元へと戻ってきた。 ◇    ◇    ◇ 「ちょっ、あんたまさかッ……!?」  引き摺られてきた男を見るなり、遼平と紫苑が驚いたような声を上げた。それもそのはず、その男というのは一昨日世話になったばかりの倫周だったからだ。 「あんた、何でこんなトコまで……」  驚く二人を他所に、倫周は掴まれていた腕を振り払わんばかりの勢いで安堵の表情を浮かべて見せた。 「君たち! よかった、無事だったんだね」  外の豪雨でずぶ濡れになった姿を構いもしないで喜びをあらわにする倫周に、二人は勿論、その場にいた誰もが彼を見やる。ヤクザの男たちも然りだ。 「何だー、てめえは? このガキ共の知り合いか? ノコノコ何しに来やがった!」 「ぼ……僕はこの子たちの保護者ですよ……っ。あなたたちこそ、こんな所に高校生を連れ込んで何をなさってるんですか!」  ふと目をやれば、ガラの悪そうな若者たちの足元に無残な姿で転がされている一人の学生を見つけて、倫周は思わずそう叫んだ。説明を聞かずともここで何がなされていたのかは一目瞭然だ。とりあえずは遼平と紫苑の二人に怪我が無さそうなことだけには安堵がよぎったものの、不穏で不味そうな空気に、声が震えて言葉に詰まる。  見るからに気真面目そうな上に優男という雰囲気丸出しの倫周を前に、ヤクザ者たちは面白そうに笑みを浮かべた。 「保護者だってよ。こいつぁご大層なこった。わざわざこんな所まで乗り込んでくるなんざ、やっぱあんた、このガキらのセンコーか?」  今時、責任感の強い教師もあったものだと、皆が一斉にせせら笑う。こんなナヨっちい男の一人や二人、相手にするまでもないとばかりにヒョイと首根っこを掴み上げ、倉庫の端っこにでも突き飛ばしておこうと手を掛けんとしたその時だった。 「この人に手ェ出すんじゃねえっ!」  ヤクザの男の手を振り払い、倫周を庇うように割って入ったのは、遼平と紫苑の二人だった。

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