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第86話

「ほう、センコーがセンコーならガキもガキってか? 庇い合いなんて洒落たことすんじゃねえか」  言うが早いか、より一層傍にいた遼平のムコウズネを目掛けて思い切り蹴りをくれてよこした。 「ぐわッ――!」 「何しやがるてめえッ!」  一瞬、ガクッとその場に崩れ込んだ遼平を庇うように紫苑が男の胸倉に掴み掛り、既に乱闘騒ぎに突入状態だ。 「おい、てめえら! よさねえか!」  当然の如く、それを見ていた春日野が今度は紫苑らに加勢せんと割って入る。 「ナメやがって、ガキ共がっ! 構うこたぁねえ! 全員畳んじまえっ!」  ヤクザの指令で白井たちも含めた全員が一斉に殴り掛かり、なるたけ暴力沙汰は避けようとしていた春日野も、もはやそんなことを言っていられる状況ではなくなった。それまでは逃げ腰で怯えているだけだった桃稜の不良連中も然りだ。こうなっては怖いだの何だのと言っていられる状態ではない。攻撃は最大の防御というのは本能なのだ。 「ちょっと、よしなさいっ! よさないか君たちっ!」  ワタワタと叫んでいるのは倫周のみで、その彼を相変わらず庇うように遼平と紫苑の二人が次々と飛んでくる拳や足蹴りを振り払う。傍らでは春日野がその長身を生かした身のこなしで、周囲にたかってくる連中をまとめて薙ぎ払いながら奮闘していた。 「春日野よー、さすがに強えな。お前と今までタイマンとかやんねえで正解だったわ」 「はぁっ!? 何暢気なこと抜かしてやがる……! それよかてめえらはその人のことだけしっかり守っとけ。こっちは俺が片付けっから」 「すっげ、頼もしいなぁ」  倫周を真ん中に抱え込むようにして三人が互いに背中合わせに円陣を作り、そんな台詞を掛け合いながら攻撃をかわす。まさに乾坤一擲の中で育まれる強い絆をヒシヒシと感じながら、彼らの横顔に誇らしげな笑みが浮かんでいるのを倫周は不思議な感覚で見つめていた。 ――あの煉瓦色の倉庫でさ、こいつとやり合ったことがあるんだ  遠い春の日に、河川敷に佇み、降り注ぐやわらかな日差しの中で瞳を細めてそう言ったのは鐘崎遼二だった。懐かしげに倉庫街を見つめる彼の後方には、同じく誇らしげに微笑み合う仲間たちが居た。義兄である帝斗と、遼二の最愛の相手だった紫月、その仲間の剛に京、そして氷川白夜、そんな彼らと共に春風に吹かれていたあの頃が何よりの至福だった。あのまま時が止まってしまったならどんなに良かったか、そう思える程に満ち足りていた春の日。  そんな光景が脳裏をよぎり、思わずこみ上げる惜春の思いが胸を締め付ける。そして今現在、自分を庇うようにして互いに背を預けて戦う彼らを目の当たりにしながら、過ぎし日の面影がリンクするように思えて、倫周は何とも言い難い高揚した気持ちを抱き締めていた。 ◇    ◇    ◇

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