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第113話

 かの友人たちが生きたあの頃を形にして残したい。  今の俺たちと何ら変わらなかっただろう思いを、個々の記憶という形のみではなく、手に取って皆で分かち合えるような何か――そう、形にして残したい。そんな思いを『曲』という形にして刻んでくれた氷川に対して、今度は自分たちの作り上げた『何か』として氷川に渡したい。  あの頃をそのままに映し出す映像、プロモーションビデオという形にして、氷川に自分たちの思いを伝えたいと、そう思ったのだ。  紫苑の考えに同調した遼平は、倫周から伝え聞いた二十年前の話を春日野に打ち明けると、改めて協力をしてもらえないかと申し出た。 「できれば氷川さんには内緒で……っつーか」 「うん、そだな。ちゃんと出来上がってから見せてえよな」  真剣な顔付きでそんなことを言う二人に、 「つまり、サプライズでってことか?」  最初は驚いていた春日野も、既にプロモ作りに意気込みを見せるかのように身を乗り出していた。 「けど、制服で撮影って……許可が下りっかな」 「確かに……そうだな。商品としてメジャーで発売するにはいろいろと制限もあるかも知れねえ」  頭を抱える遼平と春日野に、 「ん、別にメジャー用じゃなくていいんだ。氷川のオッサンにだけ見てもらえて……持っててもらえればそれでいいかなってさ」  照れ臭そうに紫苑は笑った。 「おお、なるほど! だったら細かいシチュもいろいろ自由にできるしな」 「だろ? 撮影場所は……そうだな、やっぱ例の埠頭の倉庫街がいんじゃね?」 「ああ、氷川さんと『昔の俺ら』がタイマン張ったっていう場所?」 「そうそ! 氷川のオッサンが一番大事に思ってるだろう場所だって、倫周さんもそう言ってたし」 「なぁ、お前ら……それって二十年前の話なんだろ? その倉庫って今もまだあんのかよ?」 「さぁ、どうだろな……」  遼平と紫苑のやり取りを聞きながら、春日野もまじって具体的な話に花が咲き始めた、そんな折だ。  コンコンと部屋の扉がノックされる音と同時に、こちらからの返事を待つ間もなくといった調子で倫周がひょっこりと顔を見せた。 「ごめん、ノックしようとしたんだけど……部屋の前まで来たらキミたちの話してるのが聞こえちゃって……さ」  少々バツの悪そうにしながらも、逸った気持ちを抑えられずといった感じなのがありありと分かる。素晴らしい案だね、僕も是非仲間に入れて欲しいな、まるでそう言いたげなのが彼の表情から滲み出ていた。そんな思いを後押しするかのように、後方から続いて帝斗も顔を見せた。 「事務所としても精一杯バックアップさせてもらうよ。遼平の容態が完全になったら、早速制作に入ろう」  力強い帝斗の言葉に、遼平、紫苑と春日野の三人をはじめ、倫周も合わせて、誰もが表情を輝かせた。 ◇    ◇    ◇  それからは日が過ぎるのが早かった。  プロモーションビデオの作成に向けて、カメラマンや撮影場所の手配など、実務的なことは帝斗と倫周が引き受けてくれた。対して、映像のイメージや編曲といった方面は遼平、紫苑が春日野にも意見をもらいながら作り込む日々が続く。あっという間に半月が過ぎて、卒業式がもう間近に迫っていた。  まだ傷口こそ完治してはいないものの、既にベッドから離れておおかた通常の生活ができるようになった遼平は、紫苑と共に無事に式に出られるまでに快復していた。桃稜生の春日野たちも先日の小競り合いの件に関して特には警察沙汰になることもなかったので、誰一人欠けることなく、無事に卒業を迎えられそうだった。まあ、あの後、氷川が密かに手を回したお陰で、大事の表沙汰にはならなかったというのは内密の話である。  相変わらずに忙しない日々の中、卒業式を三日後に控えて、遼平は感慨深そうに部屋の隅に吊るされた学ランを見つめていた。

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