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第115話

「えっと……突然で済まねえ。この人、俺んちの隣に住んでる幼馴染みなんだ。お前らのファンで、一度会ってみてえっていうからさ」  照れ臭そうに説明をする春日野の頬が若干染まっているように思えるのは、急に勝手なことをして知人を連れて来てしまったので申し訳ないという気持ちの表れなのだろうか。一瞬、不思議そうに互いを見やった遼平と紫苑だったが、 「はじめまして。徳永竜胆(とくなが りんどう)といいます。今日は急に押し掛けちゃってすみません」  にこやかで丁寧な挨拶をされて、思わずつられるように微笑み返した。  徳永と名乗った男の、あまりの穏やかさというか、おっとりとした何とも柔和な雰囲気に、初対面とは思えない安堵感が心地良い。 「いえ、ようこそ。如月遼平です」 「織田紫苑です。春日野のお隣さんなら大歓迎すよ!」 「ありがとうございます。僕、お二人の大ファンで、CDも全部持ってるんです。どれも素晴らしい曲で、何ていうか……すごく懐かしいというか、あったかいものを感じるなぁって」 「マジっすか! うわ、すげえ嬉しいです」 「ありがとうございます!」  すっかり意気投合し、和気藹々と話が盛り上がる。 「最近、彼がJADEITEのお二人と懇意にしてるって聞いたものですから」  JADEITEというのは遼平と紫苑が組んでいるユニット名のことだ。春日野が、この徳永にいろいろと話を聞かせていたのだろう。 「これはもう、是非一度会わせてもらいたいなって。我が侭言って(すみれ)に頼み込んだんです」 ――菫?  誰のことを言っているのだろう。徳永から飛び出した聞き慣れない名前に、一瞬首を傾げてしまう。 「それって、もしか……春日野のことですか?」  咄嗟にそう訊いたのは紫苑だった。 「え、まさかお前の名前、菫っていうのか?」  続けるようにして今度は遼平がそう尋ねる。 「……そうだけど。そういや、名前で呼び合ったことねえな、俺ら」  またもや若干照れ臭そうに視線を泳がせている春日野は、やはり普段とは少し様子が違うようだ。何となくソワソワとして落ち着かないというか、明らかに挙動がおかしい。だが、まあそれには特に触れずに、紫苑が放ったひと言で、その頬が一気に紅潮した。 「お前が『菫』で、お隣さんが『竜胆』さんって……何かすげくねえ?」 「だな! 春と秋の花じゃん? もしかして二人の親同士でわざと揃えて付けたとか?」  輪を掛けるように遼平までもがそんな相槌を打ったものだから、たまらない。火照ってしまった頬を隠さんというわけか、しどろもどろで、額にはうっすらと汗まで浮かばせた春日野の様子はさすがに尋常ではない。  不思議そうに首を傾げる遼平と紫苑を目の前に、早口で驚くようなことを口にした。 「あー……その、なんだ。お前らにはちゃんと紹介しときたくて……。実はこの人、俺の……大事な人なんだ」  え――!?  今まで後方でやり取りを窺っていた倫周までもが、パチクリと瞳を見開いている。遼平と紫苑は言わずもがなだ。 「いや、お前らにだったらちゃんと紹介できる……そう思ったもんだから」  春日野には、先日遼平が怪我を負った出来事をきっかけに、そんな思いが沸々としていたようだ。あの時、倉庫内で紫苑が絶叫しながら放った言葉、そして氷川たちがしていた気遣いや会話の内容から、二人が互いに想い合っているのではないかということに気が付いたのだろう。敢えてそのことには触れずに来たが、ここしばらくの間、交流を深める中でそれは確信へと変わっていった。  同性でありながら愛し合っているだろう遼平と紫苑に親近感を持ったのは、春日野自身もまた、同性である幼馴染みを大事に想っていたというのが大きいといえるのだろう。無論それだけではないのだろうが、より一層親しみを持ったのは確かだ。恋人のことなど今まで誰にも打ち明けたことなどなかったが、この二人にならそれを知っておいてもらいたい、春日野はいつしかそう思うようになっていった。

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