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第119話

「ところで君たち――今からちょっと時間あるかい?」  もし良かったら皆に案内したい場所があるんだけれど、とそう言って帝斗に連れて行かれた場所――それを目にした瞬間に、遼平と紫苑は言葉にならないくらい驚かされることとなった。 ◇    ◇    ◇  卒業式を三日後に控えていることもあって、社長の帝斗から式が済むまでの間は川崎の実家で過ごして来いと言われた遼平らは、とりあえずの荷物だけを持って東京の事務所を出た。帝斗が案内したい場所というのも川崎らしく、それならと春日野と徳永も帰りがてら同行することになった。  着いた所は埠頭の倉庫街――ここからだと遼平と紫苑、そして春日野の通うそれぞれの学園へも歩いて行ける距離だ。天井の高く、だだっ広いその倉庫に入った瞬間に、遼平と紫苑は何とも言えない表情で内部を見渡した。 「ここ……」 「俺らの学園の近くだよな……?」  何故こんな場所に連れて来られたというのだろう、二人は不思議顔で帝斗を見やった。 「キミらのプロモーションビデオだが、どうせなら初のライブがてら発表するのもいいんじゃないかと思ってね」  二人はビックリしたように互いを見合う。 「ライブ……?」 「それって俺らの……ですか?」  突然の夢のような話に、嬉しいよりも驚きの方が先立ったような顔で呆然状態だ。そんな様子に微笑みながら、帝斗は言った。 「ここがその会場。キミたちの初ライブはどうしてもここでやりたかったんだ」  その言葉に、先程とは違った意味で驚かされる。普通、ライブといえばライブハウスか、もしかしたらもう少し大きな会場でやらせてもらえるのかと期待してしまったのは正直なところで、だからまさかこんな倉庫で行うと聞かされては戸惑いを隠せない。未だ不思議顔でいる二人を前に、帝斗はやわらかに苦笑してみせた。 「本来、ライブをやる場所ではないのは重々承知さ。でもね、ここは白夜にとって特別な場所なんだ――」  それを聞いて、倫周から教えられていた話を思い出した。二十年前に氷川と鐘崎遼二、一之宮紫月の三人が番を張り合ったという例の場所――もしかしたらここがそうなのではないかと思ったのだ。それは直後の帝斗の説明からも理解できた。 「この倉庫はね、二十年前に白夜が遼二と紫月の二人とタイマンを張った思い出の場所なんだそうだよ」  やはりか――  だが、それを聞いた瞬間に、ドン――と、何か重く太い鋼のようなもので心臓を貫かれるような気がした。 「タ……イマン……」 「氷川さんと……例の二人が……ここで……」  遼平も紫苑も瞬きさえ忘れたような面持ちで、発する声も嗄れて上手くは言葉にならないようである。 「紫月が亡くなる際にね、最期のその瞬間まで、この倉庫での勝負を懐かしんでいたそうなんだ。いつかもう一度――ここで三人で勝負しようって、すごく嬉しそうに言いながら息を引き取ったんだそうだよ」  目頭に――訳もなく熱いものがこみ上げてくる。と同時に、胸を鷲掴みされるような切なさが二人を襲った。 「この倉庫は元々老朽化していてね、本当なら二十年前に壊される予定だったらしい。白夜はそれを買い取って、ずっと手入れをしてきたのさ。ここだけは何があっても失くすわけにはいかない、そう言ってね。今でも年に数回はここへ来て、自ら補修作業をしているくらい。だからキミたちのライブはどうしてもこの場所からスタートさせたかったんだ。勿論、その後はもっと設備の整ったきちんとした会場で……」ライブ活動が行えるようにしていくつもりだから安心して――帝斗がそう言い掛けた時だった。 「俺……知ってる……」  カタカタと肩を震わせた紫苑が、突如としてその大きな双眸を潤ませた。 「紫苑? どうした?」  遼平が抱き包むようにして覗き込むも、紫苑の視線は遙か一点を見つめて開かれたままだ。瞬きさえ惜しいというように、彼は倉庫入り口の扉を見つめていた。

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