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第121話

 本来、報復よりも先に遼二の容態の方が優先だった。大事な親友をこんな目に遭わせた桃陵の連中にお礼参りを――と、全く考えなかったわけではない。だが、そんなことをして何になるというのだ。それよりも何よりも怪我を負った彼が快復することが何より先決だ、そう思って自分を抑えてもきたのだ。無論、煮え滾る怒りを持て余していたのは言うまでもないが、それでも必死にそんな気持ちを抑えてきた。  それなのに――!  一番辛いのは遼二だ。そしてそれは自らにとっても同じこと。あいつの痛みは俺の痛みでもあるのだから。俺たちは一心同体というくらい強い絆で結ばれているのだから――  あいつを盾にしたてめえらなんぞに送ってもらわなくてもいい。要は桃陵の連中を遼二に近付けさせなければいいだけのことだ。  この俺が――遼二の傍にいるということがどういうことなのか思い知らせてやる。桃陵の奴らなど一人残らず叩きのめしてやる。誰であれ、あいつに指一本触れさせるもんかよ――!  そんな思いで駆け付けた埠頭の寂れた倉庫街。ここはいつも彼らが授業をサボってたむろしているとして知れた場所だ。病院へなど行かせない。遼二の退院を待ち伏せなんかさせやしない。その前に全員叩き潰してやる!  慟哭の焔が紫月の中でユラユラと点り、燃え、今にも爆発寸前であった。 「誰か……ッ! 大変だ! 四天の……っ、一之宮がー……! 一之……がっ!」  外で見張りをしていたらしい下っ端と思われる男たちが数人群れていたので、先ずはそれから潰していく。わめきながら仲間に助けを請う男をとっ捕まえて、次から次へとその場に沈めていった。  倉庫内に入れば、そこにはもっと大勢の軍団がたむろしているのが視界に入る――。 「随分と汚ねえことしてくれたじゃねえかよ? その上なんだ? こんな真っ昼間っからコソコソとこんな所に集まって? 次は何の相談だよ!」  つい先刻、病院で遼二を待ち伏せする云々という話題を例の母娘がしていたのが頭にあるせいでか、まさか図星だったのかと思うと、より一層の怒りを煽られたような気分にさせられた。 「俺ん相棒にちょっかい出してくれた礼をさせてもらうぜ。ついでに二度とそんな気が起きねえように、しっかり身体に叩き込んでやるわ」  そう吐き捨てた、その時だった。蒼白な表情で固まっている一団の中に、見知った顔を見つけたのだ。一団の中でも頭半分か一つ分は飛び抜けた長身の、そして物静かだが醸し出す雰囲気は他の連中とはまるで違う男。彼こそが『桃陵の白虎』という通り名を持つ程の氷川白夜という男だった。 「てめえ……氷川? へぇ、こいつぁ意外だな。まさかてめえが絡んでたとはね?」  氷川といえば、桃陵の不良たちの中でも頭を張っていると言われる程の男だ。街中で何度か見掛けたこともある。多少だが口をきいたことも――。  その際の雰囲気からして、この男だけは下っ端でイキがっているだけのチンピラ連中とは一線を画しているように感じていた。不良の頭だなどと言われてはいても、彼ならばむやみにつまらない小競り合いに進んで突っ込んで行ったりはしないだろう、そんなふうに思ってもいた。要は互いに暗黙の了解で、どこか敬服し合えるところのあるだろう相手と思っていたのに、まさかこのチンピラ連中に混じっているなどとは意外も意外だったのだ。  だが、まあこの場に居るという事実が答えなのだろう。そう思って氷川ごと打ち砕いてやるつもりで睨みをきかせた。すると、慌てた下っ端連中がすかさず間に割って飛び込んできた。 「ちょい待ちっ! 待ってくれ……! この人は……、氷川さんは今回のことに関係ねえんだよ!」 「はぁ!? ここまできて庇い合いなんてみっともねえことすんじゃねえ!」 「違うっ! 庇ってなんかねえんだって……! ホントに氷川さんは知らねんだっ! アンタの仲間の……鐘崎をヤったのは俺らで……氷川には今、初めてそのこと打ち明けたばっかなんだ」

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