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第14話 二十年前、春――

 二十年前、春―― 「しっかしお前らがあの『桃稜の白虎』と懇意にしてたなんてさー、未だに信じらんねえよなあ?」  卒業証書の入った筒を小脇に抱え、河川敷を歩きながらそんなことを言ったのは、つい今しがた四天学園高等部を卒業したばかりの清水剛と橘京だった。それを横目に、少々ふてくされたような顔つきで眉をしかめてみせたのは鐘崎遼二と一之宮紫月の二人、彼らは同じクラスで高等部の三年間を過ごした仲間内だ。 「別に……懇意になんかしてねえっつの!」  揃いの学ランを着るのも今日が最後、こうして当たり前のように肩を並べて歩くのも、これからはぐっと少なくなることだろう。皆一様に多少の感慨にふけりながら校門をくぐり、最後のひと時を惜しむように河川敷までの道のりを歩いた。  ここへはよく授業を抜け出しては息抜きに来た、今となっては懐かしくも思える場所だ。花曇りの空の下、瞳を細めれば遠目に埠頭の倉庫街が見渡せる。隣校の連中らと対番勝負などと銘打って、よくあの倉庫で喧嘩をしたり、好き勝手をやったりしたのが遠い日のことのように感じられる。とかく、隣の桃稜学園の連中とは、しょっちゅう小競り合いを繰り返したものだ。  お互いにあまり素行の褒められた学園じゃなかっただけに、街中で顔を合わせれば一触即発の間柄。そこの番格と言われていたのが『桃稜の白虎』という異名までとった氷川白夜という男だった。  かくいうこちらも遼二と紫月を筆頭に、『四天の蒼龍に玄武』などと呼ばれて、不良連中らの間では頭扱いされてきたわけだが、犬猿の仲と称された四天と桃稜の頭同士が実は懇意な間柄だったなどと聞かされれば、驚くのも無理はない。剛と京はほとほとびっくりしたというふうにしながら、隣を歩く二人を見つめていた。 「そういやお前ら、前に氷川とやり合ったって言ってたもんな? もしかそれがきっかけで仲良しンなっちったとか? そーゆーのってよくあるっつーじゃん?」 「そうそう、一通り暴れて勝負が終わった途端、今までいがみ合いしてたのが嘘みてえに和解しちまうって話!」  ひょっとしてお前らもそのパターンかといわんばかりの勢いで、剛と京に交互交互に問い詰められて、紫月はうっとうしげに口をとがらせた。 「は――、くだらねえ。俺りゃー、別に和解だの懇意にしてるつもりはねえよ! 単にあの野郎(氷川)が帝斗や倫周の知り合いだったってだけだ」  そう言った側から、ふと眼下の河原に目をやれば、先に来ていた当の倫周らがこちらを見上げながら大きく手を振っていた。倫周の隣には彼の兄である粟津帝斗と、その横にはたった今噂にのぼっていたばかりの氷川もいる。紫月は『そら見たことだ』といったふうに、剛らに向かって顎先で彼らの方を指してみせた。  紫月たちが帝斗や倫周と知り合ったのは、今からちょうど一年程前のことになる。それはちょっとした事件のような出会い方だったのもあって、その時のことは今でも鮮明に覚えていた。  倫周はもともとの名を『柊倫周』といって、四天学園とは隣の市にある名門校、白帝学園の高等部に通う一年生だった。幼い頃に両親を亡くしていた彼は、当時、伯父の家に引き取られて暮らしていたのだが、虐待まがいの扱いに耐え切れずに家を飛び出したところへ、偶然鉢合わせたのが彼と出会ったきっかけだった。  その後いろいろあって、結局は白帝学園の先輩であり、学園創設者の曾孫でもあった帝斗の家の養子として迎え入れられることになったわけだが、それまでの過程でいろいろ相談に乗ったり、交互交互に家に泊めたりして世話を焼いてやったのが経緯だ。

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