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第123話

「要は何? てめえをのめさなきゃ、あいつらに手は出させねえってことかよ? 面倒臭えことしやがって」  少しの緊張感を漂わせながら、ジリジリと互いの距離を詰めてゆく。一歩、また一歩と円を描くように対峙しながら、しばしの間、様子見合いが続いた。そうして間合いを取りながらにして、先に言葉を掛けてきたのは氷川の方からだ。 「今回のことは確かにウチ(桃稜)の連中が悪かった。てめえの相棒の鐘崎には申し訳ねえことしたって思ってるよ」 「は、素直に謝りゃそれで済むと思ってんのか?」 「別にそうは思ってねえよ。けど――、確かにウチの連中が悪かったに違いはねえが、今回のことを引き起こしたのにはてめえらにも原因あるんじゃねえのか?」 「はあ……!?」  寝耳に水の言い分に一層眉を吊り上げた。だが氷川は相変わらずに薄い笑みを浮かべたままの状態で、意外なことを口走った。 「てめえとカネが仲間割れしてるみてえだから――今がチャンスだと思ってカネを襲ったって、あいつらそう言ってたぜ?」 「カネ……だ?」  鐘崎だから略して『カネ』というわけか――随分とまた馴れ馴れしい物言いをしてくれるものだ。そんな思いが過ぎったのも束の間、 「つまりてめえらが痴話喧嘩なんかしてなきゃ、奴らもそんな気は起こさなかったってことだろう」  まるでからかうように冷笑されたのに対して、分の悪い思いが先立ってか、咄嗟には返答ままならない。それを他所に氷川の方はますます余裕の笑みを浮かべ、いよいよ格闘の体勢を取りながらも、「お前、合気道やってんだっけ?」などと趣旨外れのようなことを訊いてくる。それだけでもイラッとさせられる上に加えて、「なら勝負付かねえかもな? 俺は拳法だから」などと、ますます話題がズレた方向へ向かっているようだ。それだけ余裕があるというところなのか、思いきりおちょくられているようで気分が悪い。  減らず口はその辺にしやがれとばかりに拳を振り上げた。だがやはり一筋縄ではいかない相手だ。身軽にかわされ、間髪入れずに反撃が返ってくるのを避けさせられる手間にも苛立ちが募る。しばし空振りの繰り返し合いが続いた。  どちらの攻撃も未だ入らない。  いい加減焦れったくなってきた頃だ、 「――なあ一之宮。お前とカネ、何で喧嘩してるわけ?」  一撃、また一撃と拳を振り上げ、それをかわし合いながらそんなちょっかいめいたことを訊かれるのもうっとうしい。 「ンなこたぁ、どーだっていいだろ! てめえにゃ関係ねえ!」 「まあ、そうだな。けどちょっと興味あるな、お前らの喧嘩の理由」 「……っるせーんだよっ! 第一、喧嘩なんかしてねえっつの!」 「なら何でお前一人なんだ。果し合いに来んならカネも一緒だと思ってたけどな? 今日、退院すんだろあいつ。迎えにも行かねえでこんなトコで油売ってていいのかよ?」 「……っ、しつけーんだよっ!」 「なあ、もしかしてだけどよ――」 ――お前とカネ、どっちかが浮気でもしたとか?  そのひと言に不意を突かれたか、ほんの一瞬ゆるんだガードの隙を縫うように、氷川の一撃が脇腹へと的中した。ガクンと崩れる身体を片手で支えられ、 「やっぱ図星か?」  そう言ってニヤリと笑った氷川の顔を見上げながら苦い思いを噛み締める。 「いきなり何……抜かしやがる、てめえ……」  まだこうして話せて若干動けるということは、手加減してくれたのだろうとも思えたが、さすがに重い一撃に変わりはない。氷川とは実際こうしてやり合うのは初めてではあるが、やはり噂に違わず腕の達つ男なのだろうことを実感させられたようで、苦さを噛み締める。 「なあ一之宮。俺、前に見たことあんだぜ」 「……は、何……を」 「お前らが繁華街のラブホから出てくるところ」 ――――ッ!?

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