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第125話
「さあな。そんなことよりお前、もう病院出てんだろ? だったら今からすぐに此処へ来い。病み上がりのところ酷な話だが、急いだ方がいいぜ? でないとお前の相棒がさ――」
またひとたびクスッと笑い、と同時に拳を思い切り口に突っ込まれて驚かされた。
「……っ、ん、……ぐっ……ぅっ……!」
「ほら、いつまで強情張ってねえでちゃんと口開けよ、一之宮。それとも何だ、コレがデカ過ぎて咥え切れねえってか? おっと! 歯立てんのはナシだぜ?」
「んっ、んーーっ、ぐぅ……ぁっ……!」
『てめえッ! 一体何してやがるッ!? おい、そこに紫月がいんのか!?』
電話の向こうでは焦燥感をあらわに怒鳴り上げる愛しい男の声――
「場所は埠頭の第六倉庫だ。待ってるぜ」
『ちょっ……! 待てっ! てめえっ……、そいつに何かしやがったらただ置かねえぞっ!』
「そりゃお前次第だろ? 大事な相棒がどうかされちまう前に辿り着けるといいけどな?」
それだけ告げると、まるで楽しんでいるような笑い声と共にブツリと電話が切られた。
「……っぐ……、かはっ……!」
遼二との通話を切ったと同時に、今まで咥えさせられていた氷川の拳骨《ゲンコツ》を引き抜かれて、思い切り咳き込んだ。
「てめっ……! どういうつもりだッ!」
「何が?」
「今の電話は何だって訊いてんだよっ! 何であんなこと言いやがった!? てめ、一体何がしてえんだ……!」
あんな――ともすれば淫らな想像を駆り立てるような卑猥ギリギリな言葉。今の遼二と自分にとっては最も悪い挑発に他ならない。遼二には自分がこの男によからぬ陵辱行為を強いられているように受け取られてしまったかも知れない。いや、そうに違いない。
だが実際のところは見せかけの偽造行為、この男が本気で自分をどうにかしようとしているような気配は正直感じられないし、そういうつもりもないようだ。だったら目的は一体何だというのだ。わざわざ挑発めいたこんな電話をかけて遼二を呼び出して、この男は何がしたいというのだろう。訳が解らずに困惑させられるばかりだ。
「ふ――、カネの奴、相当焦ってたぜ? あの調子じゃ、きっとすっ飛んで来んに違いねえな。そんじゃこっちもゆっくりしてらんねえか? ホントはちょっとくれえ楽しませてもらう時間欲しいところだけどな」
氷川はそう言うと、背後から抱き締める力を強くして、ギュッと身体を密着してよこした。そして再び耳たぶにキスをするように唇を這わされ、裂いたシャツの隙間から素肌を弄られる――。
「カネとお前さ、ヤる時、どっちがどっちだよ? 俺の予想だとお前が抱かれる方ってな気もすっけど?」
胸の突起を親指で転がされながら、首筋のあちこちを這うようにキスをされた。
「……っのヤロ、いい加減にっ……しね……かッ! ……ったい、何のつもり……うぁっ!」
「おっと! イイ声出してんじゃねえって。その気になっちまう」
「……ッカ野郎ッ! ……俺に……ンなことしてっ、てめ、遼二に殺されんぞ!」
そう怒鳴ると、氷川は満足そうにニヤニヤと笑い声を漏らした。
「へえ? 痴話喧嘩してるわりにゃ大層な自信じゃねえか? てめえに”こんな”ことすっと、カネが怒るんだ?」
「……からっ、喧嘩なんかっしてねっつって……んだろ……! いい加減っ、放しやがれクソ野郎!」
「放してやってもいいけどよ。せっかくだからお前のこの姿、カネにも見てもらわなきゃ意味ねえな。遠目からだとマジで犯られちまってるように見えっかもよ? 大事なお前が穢されちまったって知ったら、カネの奴どんな顔すんだろうな? 嫉妬に狂って、俺マジで殺されちまうかもなぁ?」
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