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第126話

 ツラツラと楽しげな台詞が耳元を弄ぶ。いい加減腹が立って思い切りもがいてみたが、逆に髪の毛を掴み上げられ、口の中に指を突っ込まれて、どんどん卑猥な格好に持っていかれるのに敗北感を痛感させられる気分だ。今のこんな状態は、氷川の言うように遠目から一見しただけでは本当に犯されているように見えてしまうだろう。しかもわざとこんなものを遼二に見せ付ける気でいるらしいこの男の目的が全く理解できない。遼二を挑発し、激怒させてどうしようというのだ。  それに、如何に病み上がりとはいえ、遼二と自分が揃えば二対一だ。それでも余裕で勝てる自信があるということを知らしめたいと、単にそれだけなのだろうか。逆上を煽って尚、お前らは俺には敵わないということを分からせてやるとでも言いたいわけか。考えれば考える程、ますます訳が解らなくなった。  そんな時だ。遠くに自分を呼ぶ遼二の声がかすかに聞こえたような気がして、ハッと扉口に目をやった。 「おっと、もうご到着かよ。お早いことで! そんじゃ最後の仕上げにお前にはもう一肌脱いでもらいましょうってか?」  氷川はそう言うと、ズボンのベルトをゆるめてジッパーをも下ろしてみせた。 「バッ……!? てめっ、何っ……」 「まあそう焦んなって。これからがお楽しみなんだからよ」 「何考げーてんだ、てめえはよッ! 本気で犯る気なんかねえんだろうがッ!? 目的は何だ! あいつを煽って何しようってんだよっ!」 「何、単に興味あるだけよ。言ったろ? お前らの痴話喧嘩の理由に興味あるって。カネの奴、どうやってお前を助けんのかな? それとも案外守りきれなくて、お前が俺のモンになるって展開もアリだったりして。そしたら記念に一発くらいはヤらしてくれるか――なんつってな?」  相変わらずにヘラヘラと面白そうにそんなことを口走る。耳元でふざけた台詞をほざいている氷川に滅法腹の立つ思いは勿論だが、今はそれよりも遼二の存在の方が気になって仕方なかった。  こんな格好をあいつに見られたら――  あいつはどんな顔をするだろう。  男にいいようにされているだなんてみっともない。いや、それ以前にヘンな誤解だけはされたくない。どうせこの男は本気でどうにかしようなんて微塵も思っちゃいないのだろうから……。  だから誤解だけはしないでくれよ……。頼むよ遼二――!  お前がその扉を開けて、この光景を目にした時の驚愕の表情が目に浮かぶ。想像できる。きっと怒りに震えて、そしてすごく辛そうに苦そうに顔を歪めて――そんなお前のツラ、見たくねえよ……!  お前に哀れんだ目で見られたりしたら――恥ずかしくってマトモに目を合わせることすらできねえ――  ああ、遼二――――!  複雑な感情が一気にあふれ出す。それらを煽るように氷川の唇が首筋を捉え、撫で、悪戯なキスに犯されていく。口中に突っ込まれたままの指、思わず溢れる悔し涙とも汗ともつかないものがこめかみ付近から頬へと流れ落ちる。  嫌だ……っ!  放せ……っ!  ぐああーーーーーー!  痛烈な叫び声と、遼二が扉を開けた音とが重なって、薄暗い倉庫の中に真昼の閃光が過ぎった。 「紫月……ッ!?」 「よう、カネ! 早かったじゃねえか。文字通りすっ飛んで来たってわけか?」 「……!? てめ、氷川……? 桃稜の……? なんでてめえが……、何してやがるッ!?」  後ろから羽交い絞めにされるように抱きかかえられて必死でもがく姿、破られたシャツから覗く素肌、ジッパーのおろされた制服のズボンが太股あたりで絡まり下着だけにさせられた恥辱の格好で捉えられている。 「遼……! 来るなッ……!」  傍に来ないでくれ、俺を見ないでくれ、こんな格好見られたくはない、頼むから――!  痛恨の思いで愛しい男を見つめた。  だが、見つめただけで何もできない。氷川の拘束から逃れることもままならない。

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