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第134話

 その後、遼平と紫苑、そして春日野の三人はそれぞれ卒業式を無事に迎えた。そして、卒業証書を抱き、河川敷で待ち合わせをする。二十年前に鐘崎遼二と一之宮紫月、そして氷川や帝斗らがそうしたように、同じ場所で集まることに決めたのだった。  天候も、二十年前と同じような花曇りの空から時折薄日が射すようなうららかな陽気である。河川敷には帝斗と倫周も待っていて、今日はこれから制服のままでプロモーションビデオの撮影に入るのである。  プロモーションビデオの中では、高校時代に過ごした日常をできるだけ忠実に再現したいと思っていた。そんなわけで、遼平と紫苑はクラスの同級生たちにも声を掛けて、協力を募ったのだった。  現場に着けば、既に桃陵学園の卒業生たちも二十名くらいが集まっていて、賑わっていた。春日野が彼らにも事情を説明し、撮影に協力してくれることになったのだ。  四天と桃陵――犬猿の仲と言われ、街中で顔を合わせれば一触即発の間柄。何度小競り合いを繰り返したことだろう。威嚇し合い、ガンを飛ばし合った日々も懐かしい。四天学園の黒の学ランと桃陵学園の薄いグレーのブレザーにからし色のタイ、双方共に二十名弱の生徒らが集まれば、ちょっとした修学旅行状態だ。しかも彼らは在学中には不良グループだなんだと言われていたやんちゃ坊主の集団である。そんな少年たちが数を成して集まっている状況に、帝斗も倫周も若干気後れ気味でオタオタとなっているのが可笑しい。 「すみません、社長。倫周さん。ちょっと騒々しいッスけど、プロモにはどうしても四天と桃陵の対峙場面を入れたくて……皆に無理言って協力してもらいました」  遼平が頭を下げれば、帝斗らは「構わないよ」と言って、嬉しそうに頷いてみせた。  卒業式を終えた今、イキがり合ったことも番を張り合ったこともいい思い出である。戻りたくても、もう二度と戻れない懐かしい日々なのだ。そんな思いが郷愁を呼ぶのか、四天も桃陵もなく、誰しもが根っからの仲間のようにして、じゃれ合う光景も微笑ましかった。 「それじゃあ皆、そろそろ始めようか!」  帝斗らが連れてきた撮影班は本格的で、やんちゃ坊主の軍団はプロモーションビデオに出演できることにワクワクとした調子だ。遼平や春日野からこのビデオを作る意味や、二十年前の出来事を聞かされていたので、皆一様に張り切っている様子であった。特に桃陵の連中には、学園の伝説として語り継がれている『桃陵の白虎』その人に捧げるとあって、気合いの入り方も格別だったようだ。  撮影は河川敷を背に、四天学園組と桃陵学園組が左右に分かれて対峙するところから始められた。肩で風を切り、互いに睨みを利かせ、これから勝負が始まるぞという雰囲気の場面を動画に納めていく。それを皮切りに仲間内での談笑場面や、敵対同士でガンを付け合うシーンなども撮影し、最後に二十年前の鐘崎遼二と一之宮紫月、そして氷川の三人をイメージしたショットでプロモを締め括るという算段になった。  鐘崎遼二と一之宮紫月の役は、当然、遼平と紫苑が演る。氷川の役には桃陵学園を代表して春日野が抜擢された。  当の春日野は、「俺が『桃陵の白虎』の役だなんて」と言って恐縮気味だったが、満場一致で彼しかいないと推され、緊張しながらも精一杯挑んだのだった。  四天学園の生徒らにとっても、桃陵学園の生徒らにとっても、いい思い出の一つとして永遠に心に残る卒業式の日であった。

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