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第135話

 その後、ライブの準備が着々と進められていった。二十年前の思い出である埠頭の倉庫街で行うことについては、当然のことながら氷川も承知の上だったが、プロモーションビデオの件は当日まで極秘で制作されることとなった。ライブの最後にサプライズとして氷川に贈りたかったからだ。  幸い、プロダクションの仕事以外にも多方面での企業経営者である氷川は、事務所を留守にしていることも多く、特に今は決算期とあって不在の日が続いていた。プロモ制作にはもってこいの好条件であった。  ライブでは春日野と徳永も演奏に加わってくれることとなり、連日のようにリハーサルを兼ねたレッスンが続けられた。春日野はバイオリンは勿論のこと、ドラムスも叩けるので、その両方を担当してもらう。遼平と紫苑はボーカルが主で、楽器はといえばアコースティックギターを弾くのがせいぜいなので、他のパートができる演奏者が加わってくれることは非常に有り難いことだった。今まではミキシングで全て事足りていたわけだが、ライブとなれば話は別だ。生演奏で聴かせるには、当然演奏者が必要となってくるからだ。 「あとはギターとベースかぁ……。粟津の社長がギタリストさんを頼んでくれるって言ってたけど……」  春日野のドラムスとバイオリン、徳永はピアノが弾けるのでキーボードも担当してくれるという。そうなると、残すパートはリードギターとベースが必須だ。帝斗と倫周からギタリストを手配していると聞いてはいたが、ライブの日も刻々と近付いてきている中、そろそろ顔合わせをしたいと思っていた矢先である。 「お、粟津の社長からメール来た! 今日の午後、ギタリストさんとベーシストさんを連れて来てくれるって」 「マジか! これで本格的にリハーサルに入れるな!」  遼平と紫苑、そして春日野と徳永の四人は期待に瞳を輝かせた。このところ、ずっと四人だけで練習に励んでいたから、既に息もぴったりで仲間としての絆も固まりつつある。そして、午前中の練習を終えると、四人はプロダクション内のカフェへと昼食に繰り出した。 「けど、どんな人なんだろうね。ギタリストとベーシストの人って」 「社長さんからは何も聞いてねえのか?」  徳永と春日野がそう訊けば、 「ん、何でもすごい腕のいい人たちで、今はアジア各地でバックバンドのフリー奏者として活躍してるとかって言ってたけど」 「それに、俺らよりだいぶ年も上って言ってたな。社長と同い年だとかって」  遼平と紫苑がそんな相槌を打つ。四人が雑談に花を咲かせていると、今度は倫周からメールが入り、二時に社長室へ集合とのことだった。 ◇    ◇    ◇ 「いらっしゃい! ちょうど今、帝斗から連絡が入ったところで、駐車場に着いたそうだよ。ギタリストさんたちを連れて、これからこっちへ向かうって」  四人が社長室を訪ねると、倫周がお茶を用意して待っていた。いよいよご対面かと思うとさすがに緊張してくるわけか、四人は出されたお茶で喉を潤しながらも、背筋を正してソファに行儀良く整列するようにして座っていた。と、そこへ部屋の扉が開かれ、聞き慣れた帝斗の朗らかな声が聞こえてきた。 「やあ、待たせたね。紹介しよう、今度のライブでギターとベースを担当してくれる――」そこまで言い掛けた時だ。帝斗の後方から付いて来たギタリストとベーシストらしい二人が驚いたように感嘆の声を上げた。 「遼二――!」 「……紫月!」  遼平と紫苑を見て思わずそう言った二人の瞳は、驚きで見開かれ、そこから先は言葉にならないといったふうに硬直してしまったかのようだった。

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